研究実績の概要 |
癌細胞の増殖・転移能の獲得といった悪性化のメカニズムは、癌細胞そのものの特性だけではなく、癌細胞を取り巻く微小環境からの影響も受けている。特に固形腫瘍では、増大する腫瘍内部は低酸素に晒され、その刺激が腫瘍の血管新生を来たし、免疫細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞など様々な機能を持つ多様な細胞が動員され、相互に関係しながら癌細胞は生体内に存在している。 BMP4は生物の発生初期の形態形成に関わる重要な因子であるが、腫瘍の血管新生抑制にも関わる分子であり、BMP4が固形腫瘍の腫瘍血管新生を阻害して腫瘍の増殖を抑制することを報告した (R.Tsuchida et al. Oncogene, 2014)。さらにBMP4は新生血管にのみ親和性が高く、周囲の既存の血管についての副作用はほとんど認められないことも同時に報告した。様々な固形腫瘍の中で、特に神経芽細胞腫に関して著明な腫瘍抑制効果が認められたため、本研究では、成長期にある小児の固形腫瘍として頻度の多い神経芽細胞腫に焦点を当てた。平成30年度までに、ヒト神経芽細胞腫の細胞株を用い、in vitroでBMP4による腫瘍抑制効果を確認した。またマウスに移植したヒト神経芽細胞腫がBMP4の投与により、ほぼ完全に消失することの再現性を確認できた。BMP4を作用させた神経芽細胞腫の細胞株を用いてRNA発現の網羅的な解析を行い、その結果、増殖が抑制された細胞株において、神経芽腫細胞腫でしばしば増幅が認められるMYCN遺伝子のdown regulationが確認され、蛋白の発現低下も確認することができた。 今後はBMP4によるMYCNの抑制を介した抗腫瘍メカニズムを明らかにし、神経芽細胞腫に対する安全性と有効性が確立された新規治療法になることを期待している。
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