背景 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は主にCD4+T細胞に感染し、その数を減らし、また機能を障害することにより免疫不全を引き起こす。最近、HIV感染者では慢性的な免疫活性化が病態進行と予後に関与していることが明らかとなってきた。抗HIV療法(ART)はHIVの複製を抑制し、CD4+T細胞数を回復するが、成人では免疫活性化の改善が遅れることが分かっている。本研究ではベトナムのHIV感染小児を対象とし、ART開始後の細胞免疫活性化、Th1/Th2/Th17/制御性T細胞(Treg)のバランスを経時的に解析し、ARTが免疫状態に及ぼす影響およびARTの効果判定と予後に関連する適切な免疫系マーカーを探ることを目的とした。 方法:(1)横断的調査:ART中の小児29名(中央年齢6.1才、レンジ3.6-8.6才、男女17:12)と、対照群としてHIV非感染小児20名(中央年齢4.1才、レンジ2.0-8.3才、男女12:8)を解析した;(2)前向き調査:新規にARTを開始した小児をART開始前と開始後6ヶ月毎に解析した。検体は末梢血とした。 結果:横断的調査で、ART導入により、①Th1細胞数とCD8細胞活性化はART開始後1年以内に正常化したこと、②Th2/Th17/Tregは正常範囲回復に4.8-8.3年が必要であること、③単球の活性化は有意に変化しないこと、④CD4/CD8比はART効果をモニタリングするのに有用なマーカーであることを明らかにした。これらの研究結果を論文発表した。 新規にARTを開始した小児49名をリクルートし、前向き調査を行っている。10名の死亡例と1名の転院した例を除き、38名を6ヶ月毎にフォロー中である。現在平均17.4ヶ月観察した。横断調査の結果と同様に、ART導入後12ヶ月で、Th1細胞数とCD8細胞活性化は正常化した。今後、追跡調査を継続して、更なる解析を行う。
|