研究課題/領域番号 |
26461581
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 嘉規 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20373491)
|
研究分担者 |
川田 潤一 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (20532831)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | インフルエンザ脳症 / 急性脳症 / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
日本における小児期の急性脳炎・脳症においては、インフルエンザ脳症、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)脳症が、この順に頻度が高い。この2つの脳症は、世界的に日本からの報告例が多いことが特徴である。インフルエンザ脳症では、炎症性サイトカインなどを介して神経障害を起こすことが報告されている。その他、特定の遺伝子の関与や代謝異常との関連を示唆する症例報告はあるが、病態は十分に解明されていない。HHV-6脳症でも炎症性サイトカインと病態との関連が示唆されているが、病態解明は進展していない。メタボローム解析とは、生体内の約3,000種の低分子代謝物質を網羅的に解析する手法である。この解析を応用し、日本での頻度が相対的に高い2つの急性脳症の新規バイオマーカーを発見し、病態解明・診療の向上に役立つことを目指す。 脳症患者血清検体を用いたメタボローム解析からインフルエンザ脳症患児では3種類の代謝物質が有意に上昇し、2種類が有意に低下していた(計5種類)。HHV-6脳症では4種類の代謝物質が有意に上昇し、9種類が有意に低下していた(計13種類)。インフルエンザ脳症、HHV-6脳症の解析で抽出した新規バイオマーカー候補のうち、昨年度の解析で、キヌレニン・キノリン酸がバイオマーカーの有力候補と考えられた。キヌレニンおよびキノリン酸の髄液・血清における濃度は低いため、症例を蓄積し、臨床応用を目指すために簡便なアッセイ系の開発が必要である。キヌレニンは分子量208、キノリン酸は分子量167と低分子であり、ELISA法でのアッセイ系の構築を試みているが、現時点でプロトタイプ測定キットが構築できていない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1. インフルエンザ脳症、HHV-6脳症の血清検体を用いたメタボローム解析を行い、新しい疾患関連バイオマーカーの候補として、キヌレニンおよびキノリン酸を抽出した。特に、キヌレニンの濃度が2種類の急性脳症に共通して有意差があることから、インフルエンザ脳症の血清検体数を増やして検討した結果、キノリン酸も2種類の脳症に共通のバイオマーカー候補であると考えられた。 2. 最もバイオマーカーの可能性があると考えられたキヌレニン・キノリン酸について、簡便に測定するためのキット検出系の構築を進めている。これらの代謝物は低分子であるため、ELISAキットの構築に至っていない。 3. キヌレニン・キノリン酸以外に、それぞれの脳症でバイオマーカー候補が抽出されている。これらの代謝物については、脳症における病態への関与を想定する報告が不足しており、解析は進んでいない。
|
今後の研究の推進方策 |
1. 今年度、明らかな進捗の見られなかった、キヌレニン・キノリン酸の測定系の構築、および、他のバイオマーカー候補に関する検討を継続する。 2. 解析症例を今後も蓄積していくことにより、メタボローム解析で抽出したキヌレニン・キノリン酸を含めたバイオマーカー候補について、さらに検討を進めたい。 3. キヌレニン・キノリン酸が、インフルエンザ脳症・HHV-6脳症の病態にどのような役割を果たすかを調べるために、in vitro実験系を利用した解析が有用である。サルの初代培養細胞を利用し、血液脳関門への影響を評価できるモデル系が存在し、このモデルを用いて、キヌレニン・キノリン酸の血液脳関門への影響を評価する。脳症における脳浮腫という病態を理解する手がかりを得ることが期待される。
|