研究課題
本研究では、小児悪性腫瘍におけるがん免疫療法の効果を上げるため、WT1特異的キラーT細胞由来iPS細胞の樹立と、そこから分化誘導して得られたT細胞を作成することによって、WT1抗原のみを認識するキラーT細胞を得ることを目指している。多くの悪性腫瘍ではWT1を発現しており、患者末梢血中には内因性WT1-CTLを有していることから、この内因性WT1-CTLを採取し、そこにセンダイウイルスをもちいた初期化因子の導入によって、iPS細胞の樹立を目指した。しかしながらMHCテトラマー試薬を用いたフローサイトメトリーによる採取ではiPS細胞樹立のために十分な数の細胞を得られなかった。さらに末梢血をWT1ペプチドで直接刺激し、WT1-CTLを作成する方法についても試みたが、やはり十分な細胞数は得られなかった。そこで得られる細胞の数がごく少ない場合に、iPS細胞への初期化効率を上げる方法について検討を行った。センダイウイルスをもちいたヒトiPS細胞の作成効率を上げる方法については以下のように検討し、通常の皮膚線維芽細胞をもちいた場合の発生コロニー数をカウントした。1.リプログラミング時の温度をあげる(38~39度)2.初期化因子の効率をあげるような追加のファクターを加えるその結果、追加因子としてのLin28およびBrg1+BAF155を加えることで明らかにコロニー数が増加し、とくにBrg1+BAF155が搭載されたセンダイウイルスをMOI=3で加えたときに最大の効率が得られることが分かった。
3: やや遅れている
患者検体からの内因性WT1-CTL細胞の採取については、十分な数の細胞が得られず、その細胞数をあげる処理も効果が見られなかった。そこでこの少ない細胞数からiPS細胞を作成できる、効率のよい樹立方法を探している。これまでのところ、少なくとも皮膚線維芽細胞を用いた実験では、極めて効率の高い樹立方法を見つけることができたため、次はこの手法をWT1-CTL細胞に用いる予定である。一方、ゲノム編集技術については確実なものを確立することができた。
患者検体からの内因性WT1-CTL細胞に対し、初期化4因子に加えてBrg1+BAF155を搭載したセンダイウイルスを感染させることでiPS細胞の樹立を進める。同時に、通常のiPS細胞から造血分化させて得られた血球細胞における転写ネットワークについての遺伝子発現プロファイルを行うことで、T細胞系に重要な遺伝子発現系を明らかにする。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Cell Reports
巻: 15 ページ: 1-15
http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2016.04.031