小児悪性腫瘍の予後は飛躍的に向上しているが、依然として多くの治療抵抗例・再発例が存在する。近年がん免疫療法が注目されており、とくに再発リスクの高い白血病および悪性固形腫瘍の小児患者に対してWT1ワクチンが優れた治療効果を発揮する。しかしながら腫瘍細胞は本来抗原刺激によるT細胞の活性化を抑制する作用をもっており、WT1-CTLの細胞数はごく少数であるうえに、ワクチン投与後に活性化されたT細胞の寿命は1週間程度と非常に短い。そのため頻回のWT1ワクチン接種が必要となり、小児では強い侵襲となる。そこで本研究では、この高い効果が期待されながら、投与方法などに問題を残すWT1療法の改善を目指し、ふたつの方法でアプローチを行った。 まずWT1特異的キラーT細胞からiPS細胞を樹立し、再度T細胞へ分化誘導することによって、WT1抗原のみを認識するキラーT細胞を大量に得ること、iPS細胞での遺伝子改変を行うことにより腫瘍細胞のもつ免疫逃避作用の解除を行うことのできる系の確立を目指した。患者血液検体から採取したT細胞からのiPS細胞樹立に成功し、さらにヒトiPS細胞におけるゲノム編集技術についても確立することができた。しかしながら患者末梢血中にWT1に特異的に反応するキラーT細胞(内因性WT1-CTL)は非常にわずかであり、WT1ペプチドで直接刺激する方法によっても、iPS細胞を樹立する系は確立できなかった。今後、より高率の高いiPS細胞樹立方法を試す予定である。 次に、WT1ワクチンによる効果をより侵襲性少なく、小児においても患者への負担が少なくなる効果を目指して、WT1を発現する腸内細菌を経口投与することによるガン免疫療法の確立を図った。WT1を発現するビフィズス菌を28日間経口接種したマウスでは、移植した腫瘍のサイズがコントロールに比較して小さくなった。今後さらに解析が必要である。
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