腸内細菌叢の解析に関しては従来の培養法を用いた腸内細菌の同定と定量では再現性に乏しいことが明らかとなっている。この培養法による問題点を克服するため、私たちは新生児の便からDNAを抽出し定量的PCR、16S rDNAパイロシークエンス解析をすることにより、腸内細菌叢の確立の正確な過程について研究を行なった。 正常新生児51例を用いた検討では、無菌の状態で出生した新生児は腸内細菌科細菌が最優勢となる時期を経て、生後1ヶ月の時点では80%でビフィズス菌が最優勢となり以後安定していた。一方新生児集中治療室(NICU)で治療されている新生児では健常新生児に比べ明らかにビフィズス菌の獲得が遅延していた。また健常新生児が腸内細菌科細菌が最優勢である時期を経た後ビフィズス菌に移行するのに対して、NICU児では健常児には見られないレンサ球菌、ブドウ球菌、腸球菌が優勢である期間が長く見られていた。NICU児では清潔な保育器に収容されている期間と、ビフィズス菌獲得までの日数には正の相関(R=0.64)が認められ、厳重な感染対策がNICU児の正常腸内細菌叢の確立を障害している可能性がある。このことがNICUで治療される新生児の感染防御や成長・発達に影響している可能性があると考えられる。 この疑問を解決するために、より長期間にわたるNICU児の腸内細菌叢の変化と、児の成長発達を観察するとともに、早期にビフィズス菌優位な腸内細菌を確立させるために、ビフィズス菌の投与研究を計画している。
|