研究課題
Chicken-beta-actinプロモーター下にTEL-AML1を発現する発現ベクターを作製し、マウスES細胞に遺伝子導入して恒常的にTEL-AML1融合遺伝子を発現するマウスES細胞を作製した。TEL-AML1による白血病化の有無を検討するために、TEL-AML1を発現するマウスES細胞を未分化造血細胞を含む細胞分画であるTie2陽性細胞へ分化させて免疫不全マウス(NOGマウス)に移植した。移植後もNOGマウスに有意な白血病の発症は認めず、TEL-AML1融合遺伝子単独では白血病の発症に十分ではないと考えられた。TEL-AML1に加えて遺伝子異常を付加するために、レトロウイルスベクター(MSCV)による挿入変異を導入し、同様にNOGマウスに移植した。その際、骨髄へのホーミングを促進するためにCD44遺伝子のコーディング領域をレトロウイルスに組み込み、CD44 が同時に発現する細胞を用いて検討した。TEL-AML1とCD44を発現するTie2陽性細胞をNOGマウスに移植すると、マウスの骨髄内ではB220陽性のBリンパ球に分化した細胞の増殖を認めた。同時に骨髄から漏れ出たと思われる骨髄外の腫瘤形成を認めた。この腫瘤もB220陽性であり、Bリンパ球系統に方向付けされた細胞と思われた。レトロウイルスの挿入部位を用いたクローナリティの解析では、骨髄内および腫瘍組織のB220陽性細胞はオリゴクローナルに増殖した細胞であった。実際のレトロウイルスの挿入部位を同定すると、細胞膜構造蛋白や転写因子などをコードする遺伝子の内部に挿入していた。遺伝子内にレトロウイルスが挿入していることより、挿入部位に位置する遺伝子の正常な発現は抑制されていると考えられた。現在これらの遺伝子の発現抑制がTEL-AML1融合遺伝子と協同して腫瘍化に作用する可能性について検討中である。
3: やや遅れている
免疫不全マウスへの骨髄内移植を用いて解析を行ったが、年度当初、骨髄内移植の手技が安定しなかったため、当初の達成目標より若干遅れている。
1. TEL-AML1と付加異常の共発現による腫瘍化の検討白血病化に必要な付加異常が同定された場合、TEL-AML1融合遺伝子に加え、付加異常を導入したマウスES細胞を作製し、in vitroおよびin vivoでその腫瘍化能を検証する。In vivoでは免疫不全マウスに移植することにより、実際の白血病発症を検証するとともに、白血病幹細胞の骨髄内局在、表現型を免疫染色やFACSを用いて検討する。2. TEL-AML1陽性白血病の臨床検体・細胞株を用いた付加的遺伝子異常の同定マウスES細胞の実験系で得られた結果を臨床検体や細胞株を用いて検討する。腫瘍化の共役因子として同定された遺伝子の発現レベル、変異の有無に関して定量PCRや直接シークエンス法を用いて解析する。3. 付加的遺伝子異常をターゲットとした分子標的療法の可能性の検討上記より得られた成果を基にして、TEL-AML1陽性白血病に対する分子標的療法の可能性について検討する。
免疫不全マウス(NOGマウス)を用いたマウスES細胞由来造血細胞の移植実験が当初の予定通りに進まなかったため、免疫不全マウスの購入費や解析に要する費用が予定を下回った。またある程度の免疫不全マウス購入費を他の学内資金で振り分けることができたため、最終的に研究費に次年度使用額が生じた。
今年度は当初の研究計画通り、免疫不全マウスへの移植実験と遺伝子変異による白血病発症能の実験を行う予定である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件)
British Journal of Haematology
巻: 171 ページ: 818-829
10.1111/bjh.13763
Human Genome Variation
巻: 2 ページ: 15004
10.1038/hgv.2015.4
European Journal of Haematology
巻: 94 ページ: 177-181
10.1111/ejh.12355
Blood
巻: 125 ページ: 967-980
10.1182/blood-2014-03-563304
臨床血液
巻: 56 ページ: 1871-1881
10.11406/rinketsu.56.1871