研究課題
2001年から2010年に鹿児島県と大阪府で分離された腸管凝集性大腸菌(Enteroaggregative Escherichia coli, EAEC) 167株を対象にMLST (multilocus sequence typing)に基づく系統解析と病原遺伝子の解析を行い、以下の知見を得た。①phylogroup B1に属するO111:H21/clonal group 40 (CG40)、O126:H27/CG200 およびO86a:H27/CG3570 がわが国における歴史的なEAECクローンである。②phylogroup B2に属するEAEC O25:H4/CG131が2003年から新たに出現し、基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL) CTX-Mを高率に産生していた。③EAEC O25:H4/CG131は、世界的に蔓延している尿路病原性大腸菌(uropathogenic E. coli, UPEC)O25:H4/ST131がEAECの病原プラスミドを獲得したハイブリッド株であることが示唆される。さらに2011年から2013年の下痢症患児由来大腸菌1,281株を対象に、EAECのマーカー遺伝子であるaggRと ESBL CTX-M遺伝子をPCRで検出した。その結果、EAECは2011年6.2%、2012年2.8%、2013年4.7%、CTX-M遺伝子はそれぞれ8.3%、6.9%、10.7%だった。EAECの34.5%が線毛AAF3遺伝子を保有し、UPECの付着因子Sfaと Papはそれぞれ25.9%、34.5%が保有していた。CTX-M産生のEAEC は6株(0.5%)みられ、O111 5株、O127 1株だった。2010年までに多くみられていたCTX-M産生EAEC/UPEC O25:H4/ST131はみられず、正統的なEAEC であるO111が初めてCTX-Mを獲得したことが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
2010年までのEAECの系統解析で、わが国の主要なEAECクローンを明らかにするとともに、ESBL (CTX-M)産生EAECがUPECから出現してきたことを示すことができた。さらに2011年~2013年の下痢症患児由来大腸菌を調べることで、UPECではなく正統的なEAECがESBL遺伝子とUPECの付着遺伝子を獲得していることを明らかにした。これらの結果は、大腸菌において病原・薬剤耐性遺伝子の水平伝播がさらに進んでいることを示しており、大腸菌の病原性の変化や薬剤耐性化の研究を進める上で有意義な知見となった。
2014年以降の下痢症患児由来大腸菌の解析を進めるとともに、正統的なEAECが獲得したESBL遺伝子のプラスミドのシークエンス解析を行い、その伝播メカニズムを明らかにする。また、腸管外病原性大腸菌の病原因子として知られているK1莢膜遺伝子の分布についても調査し、EAECにおけるK1莢膜遺伝子の保有頻度を検討する。これらの研究を通じて、大腸菌全体におけるパソタイプの新たな再構成につなげることを最終的な目標とする。
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