研究課題/領域番号 |
26461593
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
志田 泰明 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (10721566)
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研究分担者 |
野上 恵嗣 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (50326328)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 血流 / ずり応力 / 血管内皮細胞 / 血友病 / ヴォン・ヴィレブランド病 |
研究実績の概要 |
血管内皮細胞は血液循環機構を維持しているだけでなく、止血反応の場でもある。血流によって生じるずり応力(Shear stress)と呼ばれる流動力学的な刺激を血管内皮細胞は受容し、その性格を変化させる能力を保有する。この性質は血管内皮細胞のheterogeneityの原因の一つとも考えられる。血液凝固第Ⅷ因子(FVIII)やヴォン・ヴィレブランド因子(VWF)は血管内皮細胞で産生されるとされているが、血流がこれらの因子の発現に及ぼす影響は知られていない。我々はずり応力を持続的に発生させながら血管内皮細胞を培養する実験系の確立を試みた。長期間培養したところ、24時間後には変化のなかった血管内皮細胞の形態が72時間後には血流に沿って細長く進展することを確認した。またFVIIIやVWFの染色を行い、局在の確認をすることができた。
血流下で形成される血栓自体もずり応力の環境により性質が異なる。高ずり応力下ではVWFの伸展により血小板との反応が促進される。低ずり応力下ではVWFに依存しない一般的な凝固反応が起こるとされる。他の凝固因子が肝細胞で産生される一方、FVIIIは凝固因子でありながら血管内皮で産生され、VWFと血中で結合して存在する。このため凝固反応の要所に位置するFVIIIが血流下で実際にどのように機能しているかは血栓の発生機序を理解する上で重要である。そこで我々はフローチャンバーにコラーゲンをコーティングし、全血を還流して血栓を形成し、固定後に免疫染色により血栓のサイズ(表面占有率や体積)やFVIII、VWF、トロンビンの局在を解析した。FVIIIの影響は高ずり応力下でもみとめられ、表面占有率よりも体積への影響が強く、FVIIIによるトロンビン産生が血栓の立体的な進展に特に寄与していると考えられた。(2016 日本血液学会発表予定)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
血管内皮細胞を血流下で培養するibidi社のポンプシステムに不具合があり、培養中に動作が不安定になる症状が頻発したため、ibidi社に調整を依頼していた。最終的には原因が判明せず一旦ポンプを点検のために発売元であるドイツまで郵送せざるを得なかった。しかし、その間に進めていたフローチャンバーを用いた血流下での血栓形成モデルで新たな結果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
最近ポンプと動作を制御するコンピューターをつなぐケーブルが改善され、その導入により動作が安定した。血管内皮細胞の血流下での培養システムの立ち合げを引き続き行う予定である。血管内皮細胞を用いてFVIIIとVWFの産生機構を解析すると同時に、産生されたFVIIIとVWFの血流下での実際の機能を解析する実験も強化していく。 フローチャンバーを用いた血栓形成モデルにより、FVIIIとVWFの血流下での相互作用および、FVIIIIの機能発現機構を解析する。VWFは血液中ではFVIIIを安定化させているだけではなく、VWFの血小板粘着機能により、FVIIIが血小板膜上へと効率よく局在化されているのではないかと考えている。種々のタイプの血友病AやVWD患者からの血液をFVIIIやVWFで修飾してフローチャンバーに還流し、形成された血栓に免疫染色の手法を用いて、FVIIIやVWFの局在性や血栓のサイズを確認することで新たなFVIIIやVWFの機能を解析していく。
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