血管内皮細胞は体内の血液循環を閉鎖系を構築することで担っている。一度破綻すると速やかに止血機構がこれを修復するように作用する。血流により生じるずり応力と呼ばれる流動力学的な刺激を血管内皮細胞は受容し、その性格を変化させる能力を保有する。血液第VIII因子やフォン・ヴィレブランド因子(VWF)は血管内皮細胞で産生されることが知られているが、これらの産生が血流により影響を受けるかどうかは明らかではない。このことを検討するために、我々はずり応力を持続的に発生させて血管内皮細胞を培養する実験系の確立を試みた。 フローチャンバーに血管内皮細胞を播種し、高ずり応力下で持続培養するシステムに接続し、3日間培養を行った。その結果を静止下で培養した血管内皮細胞と比較すると、血管内皮細胞は血流の方向に沿って伸展するようにその形状を変化させた。これらの細胞に免疫染色を行い、FVIIIやVWFの発現を検討したところ、両方の発現が増強していることが確認された。同様の実験を一定の血流の方向性のない乱流で行ったところ、様々な形態に変化した血管内皮細胞が確認された。これは部位により発生している血流の方向やずり応力が一定ではないからであると考えられた。さらに同様に免疫染色を行ったところ、細胞骨格の変化はかなり激しく、FVIIIやVWFの発現は低下していた。産生が低下しているのか、産生したのちに放出されているのかを今後検討する予定である。以上から、血流が血管内皮細胞における凝固因子の産生に影響を与えていることが明らかになった。これらは複雑に制御されており、その機構は不明である。今後はこれらを明らかにしていきたい。
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