研究課題/領域番号 |
26461598
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研究機関 | 群馬県衛生環境研究所 |
研究代表者 |
朴 明子 群馬県衛生環境研究所, 研究企画係, 研究員 (50450375)
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研究分担者 |
林 泰秀 群馬県衛生環境研究所, 研究企画係, 研究員 (30238133)
大木 健太郎 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, その他部局等, その他 (50400966)
外松 学 群馬県衛生環境研究所, 研究企画係, 研究員 (70251113)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | サイトカイン / エクソーム解析 |
研究実績の概要 |
TAM126例の血清サイトカイン計27種類を測定した。TAMにおいては、胎便吸引症候群(MAS)を伴う新生児と比較し、IL-1β, IL-2, IL-17をはじめとする多数のサイトカインが高値であり、多くのTAMの症例で高サイトカイン血症が存在していた。また、MASを伴わない新生児や正常小児と比較すると、測定したサイトカイン全般において高値であった。今回のサイトカインの解析結果から、TAMにおいてはTh1/Th2のどちらかだけが優位な病態ではなかった。TAM全例において特異的に上昇しているサイトカインは認めなかった。 また、臨床像の検討により、TAMの一部の症例では、芽球の割合が10%以下で合併症がほとんどない症例が存在し、この芽球割合の低いTAMにおいても、IL-1b, IL-6, IL-8, MCP-1などのサイトカインが上昇していることが明らかになった。この一群においてもサイトカイン高値や肝の線維化のマーカーが高値であり肝障害を起こす可能性があることを明らかになった。経時的にサイトカインを測定できた症例では、芽球の増加や循環呼吸状態の悪化に伴いIL-1b, IL-6, IL-8などのサイトカインが上昇していた。 ダウン症候群のTAMからAMLへの移行につきエクソーム解析とターゲットリシーケンスを行った。TAM解析の結果TAMでは1症例のアミノ酸置換を伴う体細胞変異の数は平均1.7個(GATA1を除くと0.7個)と少なく、TAMは21トリソミーとGATA1変異のみで発症する可能性が高いことが示唆された。TAMから白血病への移行にはコヒーシン複合体関係 (RAD21, STAG2, NIF, SMC1A, SML3)が53%、EZなどのエピゲノムの制御因子が45%、RAS/チロシンキナーゼなどのシグナル伝達系分子が47%の遺伝子の変異が関与することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TAMの中で予後不良とされる約20%の病態を明らかにするため、TAM126例におけるサイトカイン解析を行った。TAM126例においては、MASを伴う新生児と比較し、IL-1β, IL-2, IL-17をはじめとする多数のサイトカインが高値であったが、一部の症例では、著明な高サイトカイン血症が存在していることを明らかにしている。また、臨床像の検討により、一部の症例では、芽球の割合が10%以下で合併症がほとんどない症例が存在し、この一群においては予後が良好であるが、サイトカイン高値や肝の線維化のマーカーが高値であり肝障害を起こす可能性があることを明らかにしている。また、症例により状態の悪化に伴い上昇するサイトカインが存在することを明らかにしている。TAMの診断の精度の向上と重症度の判定およびターゲットとなるサイトカインを標的とした治療薬の開発の基盤の確立を推進することができた。 また、ダウン症候群のTAMからAMLへの移行する遺伝子異常につきエクソーム解析とターゲットリシーケンスを行っている。TAMは21トリソミーとGATA1変異のみで発症するが、AMLではコヒーシン複合体の遺伝子変異・欠損が53%と高頻度に見られ、これらは変異・欠損のある症例では完全に排他的に見られていた。また、同一患者のTAM, AML検体のエクソーム解析とターゲットリシーケンスでは、AMLはTAMの時にも存在している複数のクローンの一つが新たな変異を獲得してAMLを発症していることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
エクソーム解析とターゲットリシーケンスについては、今後これらの結果をもとに、新規に見いだされた遺伝子異常について検証を行い、臨床像との関係と機能解析を検討する。ダウン症候群に起こるTAMとAMLの診断の精度の向上と重症度の判定および治療薬の開発の基盤の確立を推進していく予定である。 サイトカインの解析については、これまでに明らかにされているTAMの予後因子と考えられる因子についてサイトカインプロファイルの側面から再検討を行い、予後良好因子、予後不良因子を見出し、リスク因子に基づく層別化の基盤を整備する予定である。 また、モザイク型ダウン症と非ダウン症に発症したTAMや母体内で胎児水腫となっているTAMについても、エクソーム解析を行い分子生物学的な側面と病態解明を推進していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26-27年度にダウン症候群では既知の遺伝子に加え新規12遺伝子につきサンガーシーケンスにより検証を行い、新規遺伝子を同定し、その遺伝子を多数例でHiSeq2000とMiSeqを用いてターゲットリシーケンスを継続しているところである。また、モザイク型ダウン症と非ダウン症に発症したTAMや母体内で胎児水腫となっているTAMの検体についての解析を研究予定なので、PCR、シーケンスの試薬を中心に先送りした研究費を合わせて次年度の研究費を使用する予定である。 サイトカインプロファイルについても、TGF-βがキットに含まれないため、肝線維化の病態解明のためにも試薬を購入予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
ダウン症候群のAMLでは既知の遺伝子に加え新規12遺伝子につきサンガーシーケンスにより検証を行い、さらに新規遺伝子を同定し、多数例でターゲットリシーケンスを行っているところである。次年度はさらに正常細胞を入手し、再発検体も検索してクローン進化についても検討を行う。また標的遺伝子につきターゲットリシーケンスを行い、ダウン症候群に起こるAMLの原因遺伝子を見出し、分子標的療法を開発するための分子遺伝学的基盤を構築する。また、モザイク型ダウン症と非ダウン症に発症したTAMや母体内で胎児水腫となっているTAMの検体についても、TAM発症の病態を解明するためエクソーム解析を行っていく予定である。サイトカインプロファイルについては、追加で入手している検体のサイトカインの解析を予定している。肝線維化の病態解明やTAMのリスク因子を解明するため、臨床像との相関について解析を行う予定である。
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