研究課題
胎児腎の発生過程で生じる腎芽腫の5年生存率は、治療法の発展により30%から90%まで劇的に改善された。2009年の報告では予後予測因子であった病期、組織型および年齢にかかわらず、各病期の10%の患者が死亡に至る。更なる生存率の改善には予後不良症例を予見可能な新規分子マーカーの開発と予後不良症例に対する治療法の開発が必要である。我々は日本人腎芽腫114症例の解析から腎芽腫死亡症例の7割にWTX遺伝子異常が生じ、強力な予後因子であることを明らかにした。また、特に化学療法剤に抵抗性を示した2症例全てがTP53とWTX遺伝子両方に変異を有した。本研究はこれまでの成果を進展させ、WTX遺伝子異常を有する腎芽腫の薬剤耐性への関与とそのメカニズムを明らかにすることで臨床応用に役立てることである。WTX遺伝子異常を有する腎芽腫が全て腫瘍死に至るわけではない。そこでWTX遺伝子異常を有する腎芽腫の生存症例および腫瘍死症例特異的な染色体異常を明らかにするため、WTX遺伝子異常症例でSNP array解析を行ったが生存例および腫瘍死症例特異的な染色体異常は見いだせなかった。最近、アメリカおよびヨーロッパのグループが腎芽腫の予後不良症例でSIX1/2とmiRNA processing genes(miRPGs)の遺伝子異常が生じていることを明らかにした。そこで、腎芽腫114検体を用いSIX1/2およびmiRPGs遺伝子異常のhot spot領域の変異解析を行った。SIX1/2遺伝子およびDROSHA(miRPGs)遺伝子異常はそれぞれ2、1、2検体で生じていたがDGRC8(miRPGs)は変異を認めなかった。これら遺伝子変異頻度は非常に低くWTX遺伝子異常のように予後との相関は認められなかった。
3: やや遅れている
昨年度、研究施設の立て替えおよび移動が当初予定よりも大幅に遅れ、WTXの発現抑制および発現活性化により、細胞株の増殖能・運動能や治療薬に対する薬剤感受性を解析するin vitro系の研究を進めることができなかった。しかしながら、SNP array解析による染色体異常解析を終了し、さらに欧米から報告された新規腎芽腫原因遺伝子の一部(SIX1、SIX2、DROSHAおよびDGRC8)の変異解析を114検体にて行った。
我々が予後不良因子であることを明らかにしたWTX遺伝子変異、および他グループから予後と相関することが報告されたSIX1/2とmiRNA processing genes(miRPGs)の遺伝子変異の解析をさらに検体数を増やして解析する。また、WTXの発現抑制および発現活性化により、細胞株の増殖能・運動能や治療薬に対する薬剤感受性を解析するin vitro系の研究を進める。
研究施設の立て替えおよび移転が計画より大幅に遅れたため、培養細胞を用いた系が進行せず実験計画の変更が生じた。しかしながら、2015年度に実施予定だった染色体解析および遺伝子変異解析の一部を実施したため、当初予定していた使用計画との相違が生じた。
2015年度の交付金とともに2014年度に実施できなかった腎芽腫の染色体解析および遺伝子変異解析および培養細胞を用いたWTX遺伝子異常と治療耐性メカニズムの解明を明らかにするため消耗品購入等に充てる予定である。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
Br J Cancer
巻: 112 ページ: 1121-1133
10.1038/bjc.2015.13.
Cancer Lett.
巻: 348 ページ: 167-76
10.1016/j.canlet.
http://www.pref.saitama.lg.jp/saitama-cc/kenkyujo/kenkyujo.html