研究課題/領域番号 |
26461603
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研究機関 | 埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所) |
研究代表者 |
大平 美紀 埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所), その他部局等, 主幹研究員 (20311384)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 神経芽腫 |
研究実績の概要 |
神経芽腫は自然退縮する予後良好タイプから非常に難治性の予後不良タイプまで様々な臨床経過がみられる腫瘍である。本研究では、神経芽腫組織バンクの検体を対象として、網羅的ゲノムコピー数解析および網羅的遺伝子発現解析の結果に、次世代シーケンサーによる遺伝子変異データ、RNAシーケンスデータ、エピゲノムデータを組み合わせて、臨床経過の異なるサブグループ毎の詳細な解析を行い、腫瘍悪性度や臨床予後などと強く関連する遺伝子の同定、新しい神経芽腫リスク分類システムの構築を目的とする。 平成27年度は、病期3または4の予後良好群(生存例)20症例ならびに予後不良群(死亡例)20例について、前年度までに得られたRNAシーケンシングと8x60Kアレイによる網羅的遺伝子発現解析データに対して、イルミナ450Kアレイによるメチローム解析を加えた。DNAメチル化パターンのクラスタリングの結果、予後不良群はMYCN増幅と強い相関を示すクラスターのほか、予後良好群と共通のクラスター、それ以外(死亡例が多く含まれるクラスター)のおよそ3つのクラスターに分かれた。そこで、予後不良群のクラスターに含まれる高メチル化プローブを抽出し、約40遺伝子のアノテーションを付加した。独立の神経芽腫症例の発現データから、高メチル化であった遺伝子のうち少なくとも6種類が低い発現レベルと不良な予後との強い相関が見られた。これらの中には他のがんにおいても発現の低下が報告されている遺伝子、神経分化増殖に関連する遺伝子群が含まれていた。今後さらにメチル化レベルと遺伝子発現が相関する遺伝子し、候補遺伝子群の抽出を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん研究領域においてエピゲノム解析による新しいがん関連メカニズムが次々に報告されており、遺伝子変異の頻度が低い神経芽腫においてもエピゲノム異常が関与する可能性が考えられたため、H27年度はメチローム解析について優先的に進め、40例すべてのデータ取得、アノテーション付加を完了した。今回予後と強く相関する複数のメチロームクラスターが見出されたことは、エピゲノム異常の腫瘍悪性度との関連を考える上で重要と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
MYCN非増幅タイプの神経芽腫において、遺伝子発現調節領域のゲノム構造異常によりテロメラーゼの発現が亢進し、腫瘍悪性化に寄与していることがドイツの研究グループにより報告された。しかしながら進行神経芽腫の一部の機構が解明されたに過ぎず、依然として悪性化機構が不明な腫瘍サブセットが存在する。今後の方針としては、テロメラーゼ異常、ALK異常など既知の腫瘍悪性化メカニズムの関与が確認されない腫瘍を選び、それらについて重点的に遺伝子発現データ、ゲノム異常、メチロームデータの統合解析を行うことにより、候補遺伝子の抽出を進めていく。扱うデータが膨大となっているため、必要に応じてインフォーマティクス専門の研究者との共同で進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
主任研究者の異動に伴い、年度の前半は新たな所属先の機器の使用条件検討等のため試薬は最低限の支出とし、マイクロアレイを中心としたデータ解析に注力した配分としたため。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費(約100万):核酸調製用試薬、シーケンシング試薬、マイクロアレイ試薬、定量PCR用試薬、細胞培養用試薬ならびにチューブ類などの一般消耗品、旅費(約40万):情報収集ならびに成果の発信を目的とした国内学会参加のための旅費2回分と国際学会参加2回分のための旅費を計上、人件費(約60万):研究補助、その他(約5万):振込手数料、論文の英語校正、学会参加費等
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