研究実績の概要 |
QT延長症候群(LQT)の1型(LQT1), 2型(LQT2), 1+2型(LQT1/2), 3型(LQT3), 正常コントロール(WT)の各iPS細胞をin vitroで心筋分化させて活動電位を測定した。無投薬状態を基礎値として、C293B(IKsブロッカー)、E4031(IKrブロッカー)、ATX-II(INaアクチベーター)投与後の活動電位の変化を記録した。心筋細胞表面にイオンチャネルが正常発現していればブロッカーなどの投与により活動電位延長が認められるはずであるが、変異によってイオンチャネルの機能不全があれば同チャネルブロッカー投与によっても活動電位が延長しないことが予想され、この変化率によってLQTのタイプ分類が可能であるか、遺伝子変異とphenotypeの一致が得られるか検討した。 WT iPS分化心筋はいずれの薬剤でも活動電位が延長し、イオンチャネルの正常発現が確認された。LQT1 iPS分化心筋において、C293B投与で活動電位延長はWTの約50%しか認めず、E4031やATX-II投与ではWT iPS分化心筋と同様の活動電位延長を認めた。また明らかにE4031, ATX-II投与によって不整脈の増加を認めた。LQT1/2 iPS分化心筋についてはATX-II投与では予測通り活動電位の延長を認めたが、C293B, E4031投与では活動電位延長はWT iPS分化心筋の20-30%程度しか延長しなかった。LQT2 iPS分化心筋においては、ATX-II投与においてはWT iPS分化心筋と同様の反応を示したが、C293B, E4031投与のいずれにおいても活動電位の延長はWT の10-30%程度であった。LQT3 iPS分化心筋の解析ついては心筋細胞分化効率が悪く十分なデータを得ていない。 以上より、薬剤負荷によるLQTタイプ分類はある程度可能と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
QT延長症候群(LQT)の遺伝子変異は必ずしもphenotypeを反映していないことと、実際QT延長症候群患者で遺伝子変異を認める患者は検査を行った中で60%程度と言われている。多くが1~3型に分類されるが、それぞれの型においても生活指導方法や投薬する薬の種類も異なる。よって、より正確に異常遺伝子チャネルを同定するプロトコルが必要である。その目的のために電極植込み型培養皿を使用するMEAシステムを用いたQT延長症候群の型分類を行う方法を模索している。同時に遺伝子異常が不明であっても機能不全チャネルが同定できれば患者の生活指導や適切な投薬が可能である。 現在、QT延長症候群1型(LQT1)、2型(LQT2)、1+2型(LQT1/2)、3型(LQT3)と正常コントロール(WT)のiPS細胞について解析している。LQT1, LQT1/2, WT iPS細胞から分化させた心筋細胞については大方測定解析が終了している。LQT2 iPS分化心筋については測定解析は終了しているが、一部予想と反する結果が得られており、その原因検索が必要である。またLQT3 iPS細胞から分化した心筋細胞については分化効率が低く、未だ十分な数のデータが得られていないのが現状である。心筋分化プロトコールの調整を行い、データ収集を行っていく予定である。 以上より、全ての解析データが得られていないが、目標の70%程度の解析データが得られており、概ね順調に進展していると考える。
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