研究課題/領域番号 |
26461610
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
岡田 晋一 鳥取大学, 医学部, 准教授 (50343281)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 蛋白尿 / 糸球体上皮細胞 / 糸球体基底膜 / シクロスポリン |
研究実績の概要 |
蛋白尿の発症機序解明のために糸球体基底膜の遺伝的異常により発症するアルポート症候群と菲薄基底膜病の腎生検組織を低真空走査型電子顕微鏡(低真空SEM)で検討した。低真空SEMでの観察は、糸球体上皮細胞を詳細に観察するために白金-ブルー染色を施行後に行った。 その結果としてアルポート症候群切片では糸球体上皮細胞体の球形化の所見が多くはないものの認められた.一方,菲薄基底膜病では糸球体上皮細胞の形態はほぼ正常であった。アルポート症候群では経過中に尿蛋白が増加し腎不全に至るが菲薄基底膜病では尿蛋白が出現することはなく腎機能が低下することもないという臨床的事実を考え合わせると,この糸球体上皮細胞の形態の差異がアルポート症候群における尿蛋白出現に関連していると考えられた. 次いで,糸球体上皮細胞障害の評価のために,低真空SEMで得られる形態変化に加えて上皮細胞マーカーを用いて糸球体上皮細胞の分子機構変化の検討を行った。しかしながらヒト腎生検組織では検体量も限られているため、確実に結果を得るために,まずラットを用いた実験腎炎により検討した。ネフローゼ症候群モデルとして6週齢雄性SDラットにピューロマイシンアミノヌクレオシド (PAN)を投与しPAN腎症を作成した.これに尿蛋白減少効果を有するシクロスポリンを投与し尿蛋白の推移と糸球体上皮細胞の形態変化を検討した.その結果,PAN腎症無治療群では糸球体上皮細胞足突起の正常なかみ合わせ構造はほとんど消失していたが,シクロスポリン治療群では足突起の構造に回復がみられた.このことから糸球体上皮細胞足突起のかみ合わせ構造の回復が尿蛋白の減少に関連していることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糸球体基底膜の遺伝的異常により生じるアルポート症候群と菲薄基底膜病の腎組織についての低真空走査型電子顕微鏡での観察により,糸球体基底膜の異常による腎疾患であっても尿蛋白の出現には糸球体上皮細胞の異常が関与していることが示された.また,糸球体上皮細胞足突起の形態変化が尿蛋白出現に大きく関連していることが示された.これらの結果を得たことから尿蛋白の出現機序解明に向けて進歩したと考えられる.上記からおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的である尿蛋白出現機序解明のために、免疫複合体が発症に関与している膜性腎症,全身性エリテマトーデス症例内皮細胞障害が発症に関与している溶血性尿毒症性症候群症例,メサンギウム障害が発症に関与しているIgA腎症症例の組織を低真空走査型電子顕微鏡で観察し,腎炎発症機序の差による糸球体上皮細胞の形態,分子機構の変化を検討する.検体量の限られているヒト組織で確実に結果を得るために動物実験も行いその結果を元としてヒト組織を用いてヒトにおける詳細な機序を解明する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、抗体購入金額が少額であったため物品費の残高が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
全身性エリテマトーデス、溶血性尿毒症性症候群やIgA腎症などの慢性腎炎症例に対する低真空走査型電子顕微鏡の検討と免疫染色を行うための抗体、各種試薬などを新たに購入する。また,形態変化のみならず分子機構解明のために動物実験も行う予定でありその費用も必要である.研究の情報収集、成果発表のために学会参加を行うための費用も必要であり,論文投稿のための英文校閲,投稿費の使用も計画している.
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