各種腎疾患切片を低真空走査型電子顕微鏡(低真空SEM)で観察評価し,同時に対象症例の臨床症状,尿蛋白量を検討した.対象疾患は①免疫複合体により発症する膜性増殖性糸球体腎炎,膜性腎症,ループス腎炎②糸球体内皮細胞障害により発症する溶血性尿毒症性症候群③尿細管間質性疾患のFanconi症候群,Dent病,先天代謝異常症による間質性腎炎.低真空SEMの所見では,膜性増殖性糸球体腎炎,膜性腎症,ループス腎炎では糸球体上皮細胞足突起の配列の異常があり一部には細胞体の球形化がみられた.溶血性尿毒症性症候群では糸球体上皮細胞細胞体の球形化を呈していた.一方,Fanconi症候群,Dent病,間質性腎炎では糸球体上皮細胞足突起の異常はごく軽度のみであった.糸球体上皮細胞の球形化の所見は初発時から蛋白尿が多い症例や経過の長い症例に多く,一方で腎生検施行時の尿蛋白量との関連は少なかった. 次いで,糸球体上皮細胞細胞体の球形化の意義を解明するために,糸球体上皮細胞に特異的に障害が生じるネフローゼ症候群モデル動物(ピューロマイシンアミノヌクレオシド腎症)に尿蛋白減少効果を有するシクロスポリンを投与し検討した.その結果,尿蛋白量はシクロスポリン投与により有意に減少した.腎組織の低真空SEM観察では,無治療では糸球体上皮細胞が確認できないほど荒廃した所見であったが,シクロスポリン投与で糸球体上皮細胞足突起のかみ合わせ構造の回復を認めた.糸球体上皮細胞細胞体の球形化の所見は認められなかった. 以上から,低真空SEMで認められた糸球体上皮細胞細胞体の球形化の所見は,糸球体上皮細胞障害の一過程を示しており原疾患の種類にはよらない所見であると考えられた.また,糸球体上皮細胞障害から回復する過程では上皮細胞体の球形化の所見は認められなかったことから,この球形化の所見は悪化に至る道筋を示す所見とも考えられた.
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