研究課題
現在の小児慢性腎臓病 (CKD)は、先天性腎尿路奇形/異常 (CAKUT)、遺伝性腎疾患、嚢胞性腎疾患等が主要疾患となっている。これらの治療法の開発には、糸球体疾患のみならず、すべての腎臓病の共有する病態を解明する必要がある。腎臓、特に腎間質の線維化はCKDの共通病理進行経路である。平成26年度から行ってきた研究の成果が早い段階で報告にいたり、平成27年度に掲載されるに至った。その概要はHic-5遺伝子欠損 (Hic-5-/-)マウスの系統を確立し、進行性腎疾患モデルを作成し解析することであった。その進行過程におけるHic-5の役割解析を行った。様々な細胞機能を解析した結果、Hic-5に関して最終的に注目した細胞機能は細胞増殖であった。成果報告した結果として、Hic-5が細胞増殖因子PDGF-BBやTGF-βにより発現が誘導されること、Hic-5の発現自体が増強することで細胞増殖を誘導促進する訳ではなく、むしろHic-5自体が細胞増殖を制御する分子であることが判明した。さらにHic-5は細胞周期関連蛋白の発現(Cyclin D1など)を制御することで細胞増殖機能に影響することを、動物実験および培養細胞実験により証明し得た (PLoS One. 10:e0122773, 2015)。その成果を元に、Hic-5-/-マウスに片側尿管結紮することで尿細管間質線維化モデルを作成した。これらのサンプルを回収し、Hic-5の更なる役割解析を施行している。
3: やや遅れている
平成27年度の研究計画は、左側腎尿細管結紮による腎間質線維化病変形成モデルを作成し、組織を検討評価することであった。このモデルの作成により、先天性腎尿路奇形/異常 (CAKUT)、遺伝性腎疾患、嚢胞性腎疾患等の共通病理像の間質線維化を解析することが可能となった。現在、Hic-5が腎尿細管間質の組織病変に与える影響の解析を行っている。また、尿細管や間質線維芽培養細胞の樹立を進めることも並行して行っていた。進捗状況は、当初の計画よりやや遅れている。この理由として、平成27年4月に、研究代表者の研究施設が四国こどもとおとなの医療センターの臨床研究部に異動となったことが影響している。すでに異動の段階から、前施設との共同研究を継続しながらすすめること、新研究室の研究環境を確立し、予定の研究を推進できるように進めていた。平成27年4月の研究室の異動に伴う設備のセットアップに予想以上に時間を要したため、一時的に研究を円滑に進めることができなかった。しかし、異動当初の研究環境整備構築に要する期間中に、今後の研究の遅れを取り戻し、最終年度(平成28年度)で予定通りすすめるための準備等を並行して行い、今後の研究を円滑にすすめることができるよう務めた。
平成27年度 (2年目)に、Hic-5の研究成果が論文として掲載されるに至った。論文の報告内容として、Hic-5は、細胞増殖に関わる重要な分子であることが役割解析を通じて判明した。現時点では慢性腎臓病 (CKD)の進行過程において、細胞増殖だけを制御することでCKDへの完全な介入は不可能と考えられている。そのために、Hic-5の細胞増殖以外の役割にも着目する必要がある。今後Hic-5自体の分子レベルでのさらなる解析に加えて、Hic-5の発現や機能を調整することによる腎疾患の予後への影響を含めたCKDでの役割を解析・探究していく方針である。具体的には第一に現在進行中の腎間質線維化病変形成モデルにおいて、Hic-5発現が我々の示唆してきた細胞増殖抑制と関連をもって変化するのかを明らかにすること、Hic-5の発現自体が、腎線維化の改善に作用するのか増悪進行に影響するのかを探索していく方針である。第二に、尿細管間質細胞を用いた研究であるが、細胞培養系の確立が現在進行中である。この培養系の確立が困難と判断した場合は共同研究による細胞供与等の対応に加えて、細胞レベルでの遺伝子発現や蛋白発現の制御が必要になる。この課題に関しては、現在の研究状況を確認しながら今後の方針を判断する方針である。平成27年度の研究室の異動に伴う研究の遅れを取り戻した上で、さらに推進するため、研究課題としてのHic-5発現が腎尿細管や間質細胞において、細胞接着や細胞機能に如何に影響を与えるのかを、増殖や遊走などの細胞機能解析を含めて積極的に検討していく方針である。
進捗状況としては当初の計画よりやや遅れている。この理由として、研究代表者の研究実施機関が四国こどもとおとなの医療センター臨床研究部に変わったことに基づいている。前施設での共同研究は継続しながら、新研究室の研究推進のための確立を異動前より進めていた。しかし、平成27年4月に研究室の異動に伴う設備のセットアップに予想以上の時間を要したため、一時的に研究を円滑に進めることができなかった。
平成27年度は研究室の異動当初は研究環境の整備と構築に長期間を要したが、一方でその期間中に今後の研究を推進するための準備等を並行して行うことができた。したがって、平成27年度の遅れている研究と平成28年度に計画している研究を円滑にすすめることに努め、当初の研究予定期間に研究が終了するように務める。現時点では平成27年度の使用額と平成28年度の予算を使用し、研究を完了する方針である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 2件)
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