研究課題/領域番号 |
26461619
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
内田 敬子 慶應義塾大学, 保健管理センター, 講師 (50286522)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 肺高血圧症 / カルシウムシグナル |
研究実績の概要 |
(1)2型IP3R (IP3R2)ノックアウト(KO)マウスの肺組織におけるTRPcチャネルの発現変化 平成26年度の実験結果から、IP3R2KOマウスにおいて低酸素曝露で誘発された肺高血圧症の心エコー所見や組織所見が増悪していた。IP3R2はカルシウム制御分子であるため、肺高血圧症の増悪に関わるカルシウムシグナル分子の一つであるTRPcチャネルに着目した。TRPcのサブタイプのうち、TRPc1, c4, c6はストア感受性Ca2+流入(SOCE)や受容体作動性Ca2+流入(ROCE)を介して肺高血圧症の増悪因子である肺血管収縮を引き起こす。野生型およびIP3R2KOマウスを用いて8週間の低酸素暴露による肺高血圧症モデルマウスを作製し、採取した肺組織のlysateを用いてウエスタンブロットを行った。今回用いた抗TRPc1, 抗TRPc4, 抗TRPc6抗体のポジティブコントロールとして脳組織lysateを用いた。抗TRPc1抗体は今回バンドが得られなかったが、低酸素暴露において、野生型に比べてKOマウスの肺組織でTRPc4の発現が上昇し、TRPc6の発現は変化がなかった。 (2)マウス肺動脈平滑筋初代培養細胞を用いたカルシウムイメージング ラットの肺動脈平滑筋細胞(PASMC)初代培養法を参考にマウスPASMC初代培養実施した。培養後5日から6日後に4%酸素下で24時間培養し、蛍光Ca2+指示薬Fluo4-AMをロードし共焦点顕微鏡を用いてSOCEおよびROCEを測定した。低酸素濃度下培養によって、野生型PASMCにおいても正常酸素濃度下培養に比較してSOCEが増加し、さらに、低酸素濃度下培養を行ったIP3R2KOマウスPASMCではさらにSOCEが増加していた。IP3R2KOマウスに認められた低酸素暴露による肺高血圧症の増悪にSOCEの増加が関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
TRPcチャネルの各サブタイプに対する抗体の感受性と特異性に問題があり、ウエスタンブロットの条件検討に時間を要した。 ラット肺動脈平滑筋細胞の初代培養法は広く確立されているが、マウスは収率も生存率もラットほどに高くなく、少数の肺動脈平滑筋細胞で再現性よくカルシウムイメージングを実施できる実験系の確立に時間を要した。 以上の理由により予定したin vitroアッセイの全てを実施することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
①PASMC初代培養を用いた細胞増殖能と遊走能の測定:交付申請時には平成27年度に実施を予定していた内容である。平成27年度にすでに初代培養法の実験系を確立したため早期に実施可能である。本実験によりIP3R2KOマウスに認められた肺高血圧症の増悪に対する血管リモデリングの関与について検討する。 ②IP3R2KOマウスにおけるSOCEの増加の原因探索:マウスPASMC初代培養を用いたカルシウムイメージングによるSOCEの測定系において、TRPcチャネル阻害薬(SKF96365)や他のSOCEチャネルであるOraiIの阻害薬を用いてその抑制効果を比較する。 ③肺動脈リングによる血管張の測定:野生型およびIP3R2KOマウスの1mm厚の肺動脈血管リングを作製しタングステンワイヤを介して張力を測定する。 ④IP3R2KOマウスによる肺高血圧症の進展にする②で効果のあったSOCEチャネル阻害薬の個体レベルでの抑制効果を観察する。投与方法は静脈注射または気管内注入を用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に実施予定であった細胞培養を用いた細胞増殖能と遊走能の測定が未実施であるため
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、培養用消耗品および測定に必要な試薬の購入に充てる予定である。次年度は細胞培養を引き続き実施するための実験消耗品に加えて、器官レベル、個体レベルでの実験を行う予定であり、野生型マウスの購入とノックアウトマウスの飼育費、阻害薬の購入に多くの予算を充てる予定である。
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