研究課題/領域番号 |
26461629
|
研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
栃谷 史郎 福井大学, 子どものこころの発達研究センター, 特命助教 (90418591)
|
研究分担者 |
松崎 秀夫 福井大学, 子どものこころの発達研究センター, 教授 (00334970)
岩田 圭子 福井大学, 子どものこころの発達研究センター, 特命助教 (30415088)
福田 敦夫 浜松医科大学, 医学部, 教授 (50254272)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 神経幹細胞 / 神経前駆細胞 / 性質制御 / タウリン / 大脳皮質背内側部 / 細胞分化 / タウリントランスポーター |
研究実績の概要 |
gamma-aminobutyric acid (GABA)とタウリンがGABAA受容体のリガンドとして働く。平成26年度までの実験においてマウスの神経発生初期にGABAA受容体がタウリンにのみ特異的に反応することが明らかになった。平成27年度の実験では低タウリン環境が神経幹細胞の性質制御に与える影響の基礎となる分子メカニズムを明らかにすることを目的とする実験を行った。まず、DNAアレイ実験でGABAA受容体の陽性アロステリックモジュレーターであるphenobarbital投与により神経幹細胞において発現が上昇する遺伝子を網羅的に探索し、上位を占めた遺伝子の発現部位を組織発現データベースで確認したところ、発生期大脳皮質の背内側部に選択的に発現する遺伝子であることが明らかになった。発生期大脳皮質の背内側部は大脳皮質においてパターニングセンターとして機能することが知られる。そこで、改めて、発生期大脳皮質背内側部に特異的に発現する遺伝子マーカーを複数選び、それぞれのマーカーの発現がphenobarbital曝露神経幹細胞で上昇する傾向にあることをqRT-PCRで確認した。またタウリントランスポーターノックアウトマウスの大脳皮質において、同腹の野生型の大脳皮質に比べて同じ遺伝子群の発現が低下する傾向であることを同じくqRT-PCRで確認した。これらの結果は、低タウリン状態では大脳皮質のパターニングセンターである背内側部の神経幹細胞の発生が抑制され、その結果大脳皮質全体神経幹細胞の発生が遅延する可能性を示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画において、平成27年度以降は①低タウリン環境下での神経幹細胞の性質制御の攪乱の基礎となる分子機構の解析、②低タウリン曝露を受けた胎児の出生後の行動評価、③低タウリン環境下でのCa2+非依存的シグナル伝達機構の活性の低下の可能性の検討を行う予定であった。平成27年度については①についてある程度の解答を得ることができた。また、②については平成26年度にGABAA受容体拮抗薬に曝露された個体の行動解析により、結果を得ている。③については平成26年度の研究の結果、タウリン投与により神経幹細胞のタウリン刺激により明白な細胞内Ca2+上昇が引き起こされることが明らかになったことから、検討する必要性は低いと考え、計画を行う予定はない。また、平成26年度において未達であったタウリントランスポーターノックアウトマウスのレスキュー実験もタウリンそのものの直接投与により、結果を得ている。そのため、おおむね順調に進展しているものと自己評価している。
|
今後の研究の推進方策 |
神経幹細胞の発生の時系列的な性質制御における分子機構と低タウリン環境におけるその攪乱様式を考察するにあたっては、神経幹細胞自律的な分子メカニズムと発生期中枢神経系のある領域にある神経幹細胞と他の細胞(同じ領域別の細胞や別の領域の細胞)との細胞間相互作用を基礎とする分子メカニズムの両方を考慮する必要がある。本年度の研究の結果、後者についてはおよそのメカニズムを考察することができた。最終年度である平成28年度においては、できれば、前者の神経幹細胞自律的な分子メカニズムの一端を明らかにすべく、ES細胞から神経幹細胞を誘導する実験系等も今後導入したうえで、GABAA受容体の下流となる因子群を同定していきたいと考えている。 また平成26年度において発生期GABAA受容体拮抗薬に曝露された個体の行動解析を行った。これまでのデータは神経発生初期の神経幹細胞に発現するGABAA受容体の主要なリガンドであることを示しているが、厳密に言えば、胎児期GABAA受容体拮抗薬に曝露された個体と胎児期低タウリン環境に曝露された個体が同様の行動様式を取るかは実験で検討すべきである。平成28年度にはこの実験を行い、胎児期に低タウリン環境に曝露された個体の行動様式を明らかにしたいと考えている。 また、平成26年度の研究の結果、胎児期にGABAA受容体拮抗薬に曝露された個体は社会的行動に変化が生じることが明らかになった。この社会性の変化の基盤となる神経組織構築の変化を探求することで、自閉症を初めとする社会行動の異常を伴う疾患の成り立ち、病因に関する研究に発展させていきたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度の実験計画がとても順調に進んだうえ、平成26年度中に本来平成27年度以降に着手する予定であり、比較的時間がかかるものと想定していた低タウリン環境下曝露の出生後の行動への影響評価を行うことができたため、平成27年度に予定していた実験計画が減ったことが1つの大きな理由である。また、平成27年度までに研究をまとめ、論文として発行しようと投稿したが、あいにくうまく論文が受理されず、論文発行にかかる費用が支出されなかったことも予定していた使用額より実際に使用した金額が少なくなった理由である。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度はこれまでの成果を論文としてまとめ、必ず発行したいと考えている。また、もともと国内学会での発表のみを予定していたが、情報収集や研究成果の積極的な発信のためにできれば、海外における国際学会で研究成果を発表したいと考えている。これらに関する費用を、次年度使用額を活用し支出したいと考えている。
|