研究実績の概要 |
本研究は、妊娠中の抗てんかん薬服用に起因する胎児の発達障害を予防するための知見を得ることを目的に行われた。ICRマウスの妊娠6、7、8、又は9日のいずれかにバルプロ酸(VPA)400 mg/kgを投与し、妊娠10日に胚を採取した。神経管閉鎖不全(NTDs)の有無および抗ニューロフィラメント抗体を用いたホールマウント免疫染色を行い脊髄神経形成異常(SNDs)の有無を調べた。VPA曝露マウス胚では、主に胸神経と腰神経において神経束の欠損や隣接する神経束との吻合などの脊髄神経走行異常が認められた。また、後根神経節の分節化の異常も多数認められたが、その一部は脊髄神経走行異常を伴っていた。VPA投与日毎のSNDsの発症頻度を解析したところ、妊娠8日でのVPA曝露は有意にSNDsの発症頻度を増加させた(60.0%)。一方、NTDsの発症頻度は妊娠7日(26.4%)または8日(27.7%)のVPA投与で有意に増加した。また、妊娠8日に100, 200, 400, 又は600 mg/kgのVPAを投与し、同様の観察を行ったところ、SNDsとNTDsの発症頻度にはそれぞれ用量相関性が認められた。さらに妊娠6~8日の葉酸投与は,VPAにより誘発されるNTDsの発症を有意に抑制したが,SNDsに対しては効果を示さなかった。以上より、胎生期バルプロ酸曝露によるSNDsの感受期は妊娠8日であること、およびSNDsの発症頻度はバルプロ酸投与量と用量相関性があることが明らかになった。また、胎生期バルプロ酸曝露によるSNDsとNTDsは、臨界期は類似するものの、葉酸による抑制効果の違いから、異なるメカニズムにより誘発される可能性が示唆された。
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