研究実績の概要 |
生活習慣病胎児期発症説(Barker説)に関しては、疫学、動物実験、分子レベル等多方面にわたって積極的に行われており、膵臓に関してはラットやマウスを用いた実験で、胎児期の低栄養により出生後の膵臓β細胞の数が減少することが報告されている。しかし、ヒトにおける検証は非常に困難である。本研究では、ヒトの発生過程を模倣するヒトiPS細胞の膵臓分化誘導系をモデルとして生活習慣病胎児期発症説を検証を行った。研究初年度であるH26年度には、本研究で利用する膵臓分化誘導方法の構築をおこなった。さらに、栄養因子としてのみならず生体内のメチル化反応の基質として利用されてるメチオニンが分化初期に非常に重要な役割を果たしていることを見出し、報告した。メチオニンは未分化細胞では分化細胞よりも要求性が高く、メチオニン欠乏により未分化性が破綻することを見出し、単一アミノ酸がヒトのiPS細胞分化に与える影響を世界で初めて報告した。2年目であるH27年目には、細胞分化系を低分子化合物主体のシンプルなものに改良した構築した分化誘導系を用いた細胞分化過程におけるアミノ酸要求性の違いについて報告した。最終年度であるH28年度では、ヒトiPS細胞を用いた生活習慣病胎児期発症説の検証研究の基盤となる生体環境擬似培地を作成し、その培地を用いたiPS細胞から膵臓への分化誘導法を再構築した。H26, 27年度に行った解析から従来の高栄養価の分化培地を利用して検証実験を行う際には、低栄養暴露の影響が他の豊富な栄養因子の補完によって判定しずらいことが示唆されたため、分化方法の培地組成を根本から見直し生体環境に近い培養組成による分化系の構築した。
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