研究実績の概要 |
該当年度に同意が得られた11名の臍帯血および退院後採血の児血のDNAを用いて、グルココルチコイドレセプターであるNR3C1遺伝子のプロモーター領域(ADS749-FS、ADS2386-FS)のメチル化率をパイロシークエンスにより測定した。平成28年度までに同様の測定を行った20名とあわせて計31名の結果を解析した。臍帯血の測定したすべてのCpGのメチル化率の平均は在胎期間と負の相関(r=-0.432,p=0.02)を認めた。ADS2386-FSのCpG#209領域のメチル化率も在胎期間と負の相関(相関係数-0.36、p=0.047)を認めた。退院時採血と臍帯血の同部位のメチル化率の増減(デルタメチル化率)は、測定したすべてのCpGの平均値、およびCpG#209、#205において、在胎期間と正の相関を認めた。すなわち、より早産であるほど出生時のグルココルチコイドレセプターのメチル化率が高いことが示唆された。更に、出生からNICU退院までの間のメチル化率の増加は、より早産であるほど大きいことが示唆された。一方、ADS749-FS領域のメチル化率は、在胎期間、出生体重、重篤な合併症等と有意な関連を認めなかったが、すべてのCpGにおいて測定値が低値であり、測定感度の問題があることが考えられた。以上より、早産とNR3C1遺伝子の Exon 1F Promoter領域のメチル化率の増加の関連が明らかとなった。早産出生となった原因は多様であるが、より早産であるほど出生前の大きなストレスが生じストレス反応を制御するグルココルチコイドレセプターのメチル化率を増加させ、児の成長後のストレス反応に影響する可能性が示唆された。ストレス反応の変化が早産でリスクの高いことがしられるADHDなどの発達障害と関連するかについては、児の発達についての長期的な観察が必要である。
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