研究課題/領域番号 |
26461652
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所) |
研究代表者 |
柳原 格 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所), その他部局等, 部長 (60314415)
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研究分担者 |
北島 博之 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所), その他部局等, その他 (10501041)
光田 信明 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所), その他部局等, その他 (50209805)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高感度細菌RNA同定 / 感染性流早産 / ウレアプラズマ |
研究実績の概要 |
周産期領域では禁忌とされるキノロンに対する流早産起因細菌ウレアプラズマの耐性状況について、本邦初となる解析を行った。国内周産期施設より依頼され当方で分離したウレアプラズマ28株中、9株はキノロンに高いMICを示した。これら菌株はキノロン耐性決定領域(QRDR)であるParCのS83L変異を有していた。ウレアプラズマ130検体由来のDNAのQRDRの塩基配列決定では、29株に変異を認めた。さらに、新たなParCの2変異(S83W, S84P)について、ホモロジーモデリング及び、de novoペプチド構造予測にて、耐性に関わる可能性が高いことを示し報告した(Antimicrob Agents Chemother, 2015)。我々の結果は、成人領域で頻用されるキノロン系抗菌薬が次世代の育成にとって重大な懸念をもたらす可能性を示している。関係学会等との情報交換、連携を行い、次世代の健全な育成に努める方策を練る重要性を示している。 第3世代シーケンサーを用いて明らかにしたウレアプラズマ全ゲノム情報(Genome Announc, 2014)を元に、高感度細菌RNA同定方法のためのプライマーの最適化を行い、ウレアプラズマDNAの高感度同定に成功した。RNAベースとしたウレアプラズマ核酸の同定はこれまで報告がなく、我々が独自に開発した方法である。そこで、臨床チームは、切迫早産患者及び、早産児より検体を採取し、我々のYIF-SCANの変法により解析を進めている。簡易解析の結果で、早産群では1)腟内総細菌数が少なかった、2)特にラクトバチルスの菌数が減少していた。この結果は、これまでの報告と相違なく、解析に十分であると考えられる。今後は、母体のリンパ球サブセットとの関連を含め、より詳細な細菌叢の解析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年間早産は世界で1500万人に及び、そのうち100万人は早産及びその合併症で死亡している(WHO推計)。1954年、ヒトウレアプラズマの発見から半世紀以上、周産期領域では、ウレアプラズマが多くのリプロダクティブエイジ女性生殖器内から分離されることから、果たして病原細菌なのか、それとも常在菌なのかという論争が続いた。当方では、これまでヒト流早産胎盤からウレアプラズマの分離を行い、疫学的に流早産との関連を明らかにし、さらに妊娠マウスに対してウレアプラズマ外膜タンパクMBAは早産や胎仔死亡を引き起こすことを見出した。流早産に関する病原因子が同定されたことで、本菌が当該領域における病原微生物である事を証明した。多くのヒトに感染が拡大している理由については、抗菌薬耐性の関与が考えられる。我々は新たな薬剤耐性遺伝子変異を報告したが、周産期領域ではキノロン系薬剤は禁忌であり、耐性変異の獲得は他の成人医療分野で投与された抗菌薬によって選択を受けたものと推測される。一方、流早産母体の腟内の細菌検査で、正常バリアを形成する乳酸菌が少なくなっていることをしばしば経験する。乳酸菌の減少と、起因微生物の増殖は、複雑に絡みあうヒトと病原細菌の間で繰り広げられる果てしない攻防の一旦である。その点に着目し、成果を見せ始めている。
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今後の研究の推進方策 |
最小病原細菌の一つであるウレアプラズマがいかにして大多数の成人女性に感染し、正常腟内細菌叢である乳酸菌などを押しのけて増殖し続けられるのか、解析を進める。高感度に病原菌を定量する方法の開発は順調に推移している。そこで、鋭敏な起因微生物検索による局所における微生物ネットワークの解析と、母体のリンパ球サブセットとの相関について詳細に解析を進める。 ウレアプラズマのゲノム情報から宿主細胞を障害する機構を解析し、宿主細胞と細菌の相互作用を理解する。これまで真核細胞や原核細胞を用いてウレアプラズマの毒性発揮因子のスクリーニングを行い、ウレアプラズマのある蛋白質がヒト培養細胞に対して毒性を示すことを見出している。その毒性発揮分子機構は不明であるので細胞生物学的手法を用いて解明する。この蛋白質の種々の長さの欠損クローンをヒト細胞に発現させることにより、毒性を発揮するために必要なドメインを同定する。毒性発揮ドメインを元にして、相互作用する宿主側因子を同定する。このことにより、毒性に関わる宿主側分子が同定でき、毒性発揮機構の全容が明らかになると期待される。1970年代、ウレアプラズマ発見当初、細胞毒性が報告されたが、未だ因子の同定には至っていない。長年の宿題を解決したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度、必要となる試薬を購入する為。
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次年度使用額の使用計画 |
薬品類を購入する。
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