研究課題/領域番号 |
26461652
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所) |
研究代表者 |
柳原 格 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所), その他部局等, 部長 (60314415)
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研究分担者 |
北島 博之 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所), その他部局等, その他 (10501041)
光田 信明 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所), その他部局等, その他 (50209805)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 水酸化フラーレン / 感染性流早産 / ウレアプラズマ |
研究実績の概要 |
ウレアプラズマによる早産の制御を目的とし、新たな抗炎症分子である水酸化フラーレンの効果を調べた。以前の検討で、水酸化フラーレン[C60(OH)44]には妊娠マウスへの毒性が認められなかった。また、明らかにしたウレアプラズマ外膜リポペプチドUPM-1(TLR-2リガンド)は培養細胞に炎症反応を誘導し、妊娠マウスに早産を引き起こす。HeLa細胞、HEK293T細胞にUPM-1及び水酸化フラーレンを添加し、NF-kBの活性化を定量解析したところ、水酸化フラーレンは濃度依存的にNF-kBの活性化を抑制した。また、UPM-1や大腸菌のLPSは、HEK293T細胞や、マウス腹腔マクロファージ内において活性酸素種(ROS)の産生を誘導した。水酸化フラーレンはUPM-1、LPSに誘導される細胞内ROS産生を抑制した。また、UPM-1はマウスマクロファージにおいてIL-6, IL-1beta, TNF-alfaの発現を上昇させたが、水酸化フラーレンはこれらを抑制した。UPM-1による早産モデルマウスに対する水酸化フラーレンの影響を調べた。コントロールのマウスでは早産率は0%(n=5)であったが、UPM-1投与では73%(n=11)のマウスは早産した。水酸化フラーレン単独投与による早産率は0%(n=6)であったが、UPM-1及び水酸化フラーレン投与群におけるマウス早産率は18.2%(n=11)と有意に低下した。母獣あたりの胎児生存率は、コントロール群86%、UPM-1投与群13% 、水酸化フラーレン投与群79%、UPM-1及び水酸化フラーレン投与群42%と、水酸化フラーレン投与群は母獣あたりの胎児生存率が高い傾向にあった。また、マウス胎盤病理において好中球浸潤は減少し、絨毛間腔の拡大が抑制され血液細胞で満たされており、組織学的な改善を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年間早産は世界で1500万人に及び、そのうち100万人は早産及びその合併症で死亡している(WHO推計)。1954年、ヒトウレアプラズマの発見から半世紀以上、周産期領域では、ウレアプラズマが多くのリプロダクティブエイジ女性生殖器内から分離されることから、果たして病原細菌なのか、それとも常在菌なのかという論争が続いた。当方では、これまでヒト流早産胎盤からウレアプラズマの分離を行い、疫学的に流早産との関連を明らかにし、さらに妊娠マウスに対してウレアプラズマ外膜タンパクMBA(リポペプチドUPM-1)は早産や胎仔死亡を引き起こすことを見出した。病原因子を同定したことで、流早産菌細菌であることを証明した。また、UPM-1はTLR2依存的に炎症反応を誘導し、感染細胞はROSを産生する。子宮内という限られた閉鎖空間における過剰な免疫反応(サイトカイン産生や、各種ストレス等)が感染・炎症性流早産の成因であることから、ウレアプラズマによる免疫反応を制御することが新たな治療法の開発につながる。そこで、抗酸化・抗炎症効果のある水酸化フラーレンに注目し、UPM-1誘導性マウス早産モデルを用いて水酸化フラーレンによる抑制効果を検証した。水酸化フラーレンは、培養細胞における炎症性サイトカイン、細胞内ROS産生を抑制した。また、モデルマウスを用いた系では、早産率を有意に低下させ、母獣あたりの胎児生存率は上昇する傾向にあった。これらから、従来は制御困難であったウレアプラズマによる炎症誘導性の早産に対する新たな治療の方向性を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
UPM-1による炎症反応の新たな制御法の開発は当該年度で終了した。未だ解決できていない問題として、多くの感染者は特異的な抗体を有しているにも関わらず、如何にしてウレアプラズマは宿主の免疫系をすり抜けてヒトと共に増殖しているかという問題は充分に理解されていない。生殖年齢女性の3から5割に感染し、正常腟内細菌叢である乳酸菌などを押しのけて増殖し続けられるのか謎である。 より高感度に病原菌を定量する方法の開発は順調に推移しており、最終年度には完成の予定である。この高感度同定法を用いれば、より詳細にウレアプラズマの宿主(細胞)との関係を明らかにすることができる。また、ウレアプラズマによる新たな毒性発揮機構を解明するため、報告した日本人由来のウレアプラズマ全ゲノム配列から宿主細胞の増殖に影響を与える分子のスクリーニングを行っている。複数の候補分子の中から、遺伝子の発現解析や、宿主分子との相互作用解析を通じて障害のメカニズムを明らかにする。ウレアプラズマ早産0に向けて取り組んでいく。
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次年度使用額が生じた理由 |
ウレアプラズマの毒性発揮機構の解析の為には、遺伝子発現解析、変化を受ける遺伝子のスクリーニング、抗体試薬等の購入が必要でありそのための研究費を繰り越す必要がある。
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次年度使用額の使用計画 |
遺伝子解析関連試薬類に30万円、抗体等の購入に残りをあてる予定である。
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