研究実績の概要 |
DNA修復機構は細菌からヒトまで保存されている重要な生命機構である。DNA mismatch repair (MMR)はミスマッチ認識、エラー鎖切断、断片鎖除去、DNA修復合成と進行するが、ヒトではミスマッチ認識に必要な7種の酵素(MSH2, MSH3, MSH6, PMS1, PMS2, MLH1, MLH3)が存在する。我々は2014年12月に、世界で初めて各種膠原病患者において、皮膚筋炎(DM)や多発性筋炎(PM)といった筋炎群の患者に、これら酵素群に対する自己抗体が見出され、その対応抗原はMLH1、PMS1、 MSH2、PMS2に限定されていることを報告した。その後の研究で、引き続き新たな筋炎患者におけるこれらの抗体の有無を調べたところ、他の筋炎マーカー自己抗体併存例が3例(抗MJ抗体が2例、抗Mi-2抗体が1例)、併存抗体が見つからなかった例が3例(そのうち小児の1例は論文投稿中)存在した。また既報告中、4種の酵素に対する抗体が全て陽性(この反応パターンを“フルスペクトラム”と新たに定義した)の1例には、その後の解析で抗Ku抗体が併存することも判明した。 この度、抗体のフルスペクトラム症例が抗Ku抗体陽性であり、Ku抗原もDNA修復に関与するタンパクであることから、その併存性を確認するために、これまで当科で経験した抗Ku抗体陽性症例7例についてMMR酵素群に対する自己抗体に対する抗体の有無を調べたが、全例が陰性であった。これまでの結果から、MMR酵素群に対する自己抗体は他の自己抗体と併存する場合、一定の傾向は無い、と結論づけた。 次に新たなフルスペクトラム1症例を含む併存抗体の無い症例における抗核抗体のパターンを検討したところ、陰性の症例から核内speckled陽性の症例、細胞質抗体陽性の症例など一定の傾向を認めないことが判明し、臨床検査における抗核抗体検査がMMR酵素群に対する自己抗体のスクリーニングに対して適さないことが判明した。
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