本研究は、乾癬の皮膚病変を誘導可能なモデルマウスを用いて、炎症性皮膚疾患におけるKCのエピジェネティクス変化の病変形成における意義を検討する事を目的としている。前々年度までに検討を行った結果、乾癬モデルマウスとして、imiquimod(IMQ)塗布モデルにおいてヒストン修飾に影響を及ぼす様々な薬剤をモデルマウス系に投与し、症状の変化を検討する、リバースケミカルゲノミクス的な方法論を取る事とした。化合物スクリーニング実験の結果から、前年度にはあるヒストン脱メチル化酵素阻害剤の投与により、皮膚病変が増悪することを確認していた。最終年度にあたる本年度では、皮膚病変を改善する予備的な結果を得ていた分子について、検討を行った。 Harmine hydrodrochlorideをIMQ塗布乾癬モデルマウスに腹腔内投与した際に、僅かではあるが、用量依存性に皮膚病変の改善効果を得た。Harmine hydrodrochlorideによる病変の改善効果は微弱であった為、更なる効果を得る為に、より効果的な化合物の探索を行った。Harmine hydrodrochlorideにはヒストンリン酸化酵素の一つであるDyrk1aの阻害作用があることから、Dyrk1aに対してより強い阻害作用を持つCX-4945(IC50=6.8 nM)を用いて同様の実験を行った。その結果、CX-4945の投与化では、IMQによる皮膚病変はさらに強力に抑制された。文献的検索により、Dyrk1aの阻害によりヒストンリン酸化の低下の他に、 NFAT経路の亢進によるTregの分化促進作用が生じる事が推測された。従って、CX-4945のIMQモデルマウス皮膚における効果は複合的な作用による事が想定された。本研究により、Dyrk1aが乾癬病変の治療標的となる可能性があり、CX-4945が実際の候補化合物であることが示唆された。
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