表皮のバリア形成に重要な因子のひとつとしてセリンプロテアーゼ活性があり、その活性を制御するのは表皮角化細胞が産生するセリンプロテアーゼ阻害因子である。我々はセリンプロテアーゼ阻害因子の発現を誘導する機構について培養ヒト表皮角化細胞を用いて,転写レベル、蛋白レベル、酵素活性レベルでの評価を行った。さらに種々の皮膚疾患における阻害因子の発現を検討した。 表皮角化細胞におけるリンパ上皮Kazal型関連阻害因子(LEKTI)、secretory leukocyte peptidase inhibitor(SLPI)、エラフィンの発現制御について検討し、高濃度Ca2+が転写および蛋白レベルでLEKTIの発現を有意に増強することを報告した。その誘導はCa2+濃度依存性および時間依存性であった。さらに高濃度Ca2+は培養上清中のトリプシン様セリンプロテアーゼ活性を増強し、その一方でキモトリプシン様セリンプロテアーゼ活性を減弱させることが明らかになった。 次に我々は正常皮膚、アトピー性皮膚炎病変部、乾癬病変部におけるLEKTIの発現を免疫組織学的に検討した。興味深いことにLEKTI の発現は乾癬病変部で著明に増強している一方で、アトピー性皮膚炎病変部では正常皮膚と同レベル程度しか認めなかった。さら帯状疱疹、細菌性毛包炎、酒さの皮膚病変部においてLEKTI、SLPI、エラフィンの発現が増強していた。これらの結果は表皮角化細胞においてTh1/Th17サイトカインやToll様受容体リガンドがこれらの阻害因子の発現を誘導することと関連があると示唆された。
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