研究課題
本研究は紫外線 A波 (UVA)の長期眼照射が皮膚の光老化と記憶・学習能力の低下を誘導する脳内メカニズムの解析を目的として行った。本試験では UVAを1日1回 110 kJ/m2 で週3回、一年間眼に照射した。対照群は可視光を同条件で眼に照射した。UVAの長期眼照射により脳内の gp91phoxの発現が増加し、それに伴い gp91phox由来の活性酸素 (ROS)の発生が増加した。産生されたROSは脳中の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン (CRH)およびウロコルチン2の分泌を増加させる。CRHおよびウロコルチン2の受容体にはCRHR type 1とtype 2が存在し、UVA長期眼照射では脳中のCRHR type 2の発現が増加していた。このCRHR type 2 は皮膚においては肥満細胞からのヒスタミンの遊離を誘導しており、このヒスタミンがコラーゲンの分解や炎症を導き、皮膚の光老化を誘導していることが示唆された。一方、UVA長期眼照射は、脳中のアセチルコリン量の低下、海馬領域におけるβ-Amyloid、γ-SecretaseおよびAdvanced Glycation End Products (AGEs)の発現の増加をもたらした。さらに、UVA長期眼照射では脳中へのグルコースの取り込みが減少していた。これらのことはアルツハイマー病における脳内タンパク質発現変化と類似しており、UVA長期眼照射による記憶・学習能力の低下の原因の一つと考えられた。本研究において、UVA長期眼照射は脳内の関連シグナルの発現を誘導し、皮膚の光老化と記憶・学習能力の低下を引き起こした。今後、皮膚の光老化と記憶・学習能力の低下を防御するため、眼から侵入するUVも考慮に入れる必要がある。また、本現象のメカニズムの解析よりUVA暴露に対する新しい予防・治療法を確立することができると考えられた。
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