我々はMCL1による表皮角化細胞の分化制御のメカニズムを解明するために、K5-Cre:MCL1flox/floxマウスの作製に取り掛かり成功した。このマウスでは組織特異的プロモーターとして表皮基底細胞に強く発現しているケラチン5(K5)のプロモーターを利用してCr eリコンビナーゼを誘導し、その結果としてMCL1のfloxアレルが欠損する。 同腹子であるK5-Cre:MCL1flox/floxマウスとWild-typeマウスの皮膚を病理組織学的に検討したところ、K5-Cre:MCL1flox/floxマウス の表皮は全体的に肥厚し、顆粒層の肥厚も目立っていたが、興味深いことにアポトーシスに陥った細胞は光顕上明らかではなかった。以上の所見からMCL1の欠失により表皮角化細胞の最終分化過程と表皮ホメオスタシスの維持機構に異常を来すことが推測された。 組織特異的プロモーターとしてケラチン5と同様、表皮基底細胞に強く発現しているケラチン14(K14)のプロモーターを利用し、タモキシフェン誘導性Cre-ERT2組み換え酵素を用いて、K14-CreERT2:MCL1flox/floxマウスの背部皮膚にタモキシフェンを外用し表皮角化細胞におけるMCL1欠失の影響を調べたところ、K5-Cre:MCL1flox/floxマウスと同様に、対照のマウスと比較して皮膚では著明な角 化亢進と表皮肥厚が認められたが、明らかなアポトーシスの所見は得られなかった。 次にMCL1の免疫染色を施行したところ、正常皮膚組織においてMCL1の発現は角質層において最大であり、増殖の活発な基底層にはMCL1の発現は認められなかった。このことは、MCL1が表皮細胞の最終分化過程においてなんらかの機能を発揮している可能性を示唆しており、興味深い。MCL1を介した蛋白質間相互作用の解析を行っている。
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