研究課題
腫瘍随伴性天疱瘡(PNP)は天疱瘡群の一つで、皮膚病変と粘膜病変を示し、血中に主にプラキンファミリー蛋白に対する自己抗原を検出する。エピプラキンは、他のプラキンファミリー蛋白と異なる構造を有し、細胞質内分子として表皮全層に発現が認められ、ケラチン中間系繊維を束ねる形で細胞骨格の維持に関与すると考えられている。エピプラキンは現在までに発見された最後のプラキンファミリー蛋白である。これ以前に発見された全てのプラキンファミリー蛋白は、PNPの抗原であることが認められたことから、同じプラキンファミリー蛋白であるエピプラキンもPNPの自己抗体である可能性が考えられた。表皮抽出液での免疫ブロットでは、PNP患者血清のエピプラキンに対する反応を確認できなかったことから、PNP患者血清中の抗体はエピプラキンの高次構造上のエピトープに反応している可能性を考え、ケラチノサイト細胞抽出液で免疫沈降を行った。その結果、検討した患者血清の約70%でエピプラキンに対して陽性であることが認めた。また、臨床診断との統計解析を行った結果、エピプラキンがPNP患者で時々併発する閉塞性細気管支炎(BO)様肺病変の発症に関与している可能性を認めた。このことを確認するため、幾つかの実験を行った。免疫組織学的検討の結果、肺の細気管支にエピプラキンの発現を確認した。そして、エピプラキンの発現を確認した正常ヒト細気管支上皮細胞の抽出液で免疫沈降を行った結果、PNP患者血清においてエピプラキンの反応が認められた。そして、マウスへのエピプラキン抗体の導入により、BOの特徴である肺の細気管支細胞の肥大と炎症が認められた。以上の実験結果から、エピプラキンに対するPNP患者血清中の自己抗体が、何らかの機序を経て肺の細気管支細胞内に侵入し、皮膚病変と同様の抗原-抗体反応が引き起こされてBOが発症することが推測された。