研究課題
アトピー性皮膚炎や尋常性乾癬などの皮膚疾患の罹患率は増加傾向にあり、社会問題となりつつある。皮膚は免疫組織としては最大の臓器の一つであるため、皮膚の慢性炎症により局所より産生されるサイトカインが生体の免疫に与える影響は甚大であると思われるが、炎症性サイトカイン過剰モデルが致死性のため、長期間にわたる高炎症性サイトカイン血症が内臓臓器に与える障害を調べた報告は無い。本研究に於いては、2種類の自然発症皮膚炎モデルを利用し、皮膚炎病変部から産生されるIL-1により高IL-1血症がもたらされ、結果全身の炎症、特に心血管病変・脂質代謝異常・全身性アミロイドーシスを生じるに至る可能性を詳細に検討する。また抗IL-1抗体や炎症性サイトカイン阻害剤の投与により、これらの内臓病変の回避の可能性を検索する。従来、皮膚炎と全身的な臓器障害との結びつきに関する検討は少なかった。本研究では初めて持続性高IL-1血症の結果、心血管病変・脂質代謝異常・全身性アミロイドーシスとの関連を説明できるのが特徴的である。また高IL-1血症は家族性地中海熱、クリオピリン関連周期熱症候群等の自己炎症性症候群の基本病態であり、この疾患には抗IL-1抗体が蕁麻疹様発疹・発熱・関節炎を抑制する為に使用され有用である。更に自己炎症性症候群では動脈硬化も増加している。本モデルでは自己炎症性症候群の内臓病変の病因解明が可能となり、抗IL-1抗体や炎症性サイトカイン阻害剤の投与により症状のコントロールのみならず、内臓病変を回避する実証モデルとなりうるため、その詳細な研究が医学的・社会的に極めて重要と考える。
1: 当初の計画以上に進展している
当科オリジナルの急性型・慢性型自然発症皮膚炎モデルを利用し、皮膚炎局所より産生されるIL-1が抗サイトカイン血症をもたらし、結果 全身の炎症を生じ得ることを証明できた。急性型自然発症皮膚炎モデルは表皮特異的にcapase-1を過剰発現したモデルであり、生後8週齢で顔面から皮疹を生じ、著明な掻痒を伴う急性の皮膚炎が全身に拡大する。また慢性型自然発症皮膚炎モデルはIL-18を過剰発現させたマウスであり掻痒を伴う慢性湿疹が生後1年から発症し、年余に渡り持続する。病変部皮膚の浸潤細胞や炎症性サイトカインの検討など詳細な検索を行った。次に臓器病変の検討であるが、①持続性皮膚炎自体が動脈硬化に寄与していた。末梢循環不全が起き、末梢血圧の低下と心肥大が生じていた。②組織学的検討にて脂肪細胞も健全な組織を呈していなかった。アトピー性皮膚炎患者の中にはいわゆる痩せ傾向が多く見られるが、本マウスモデルでも内臓脂肪の減少が著明であった。マウスのCT撮影を行い、脂肪量の解析と皮疹の重症度との相関を調べた。培養脂肪細胞はIL-1α、βの負荷にて細胞質の萎縮が生じる事は確認しており、直接の高IL-1血症のため皮下脂肪織の減少が生じている可能性があるが精査を施行している。③持続性の炎症の結果生じるアミロイド沈着、アミロイドーシスは極めて重要である。臓器腫大と共に、機能異常を認めた。高度のアミロイド沈着は臓器不全にまで至るため、臓器を詳細に検討する必要がある。皮膚炎は、これまで全身的な炎症との結びつきは言及されてこなかった。しかしながら、本研究により広汎な皮膚炎,皮膚障害及び高IL-1血症が、心血管病変・脂質代謝異常・全身性アミロイドーシスを生じるに至る可能性が極めて高い事が証明できた。
皮膚炎の改善と共に回避すべき事項は内蔵合併症である。抗IL-1抗体や炎症性サイトカイン阻害剤の投与により、これらの内臓病変の回避の可能性を早急に検索する。大動脈の検索、硬化の回避、慢性心肥大の予防が重要である。抗体投与は皮膚炎発症前からの予防的投与と共に、皮膚炎発症後の治療的投与の2つのスケジュールにて施行予定である。組織学的解析・分子学的解析・CT撮影による視覚的解析を行う予定である。更にはサイトカイン抗体療法による臓器アミロイドーシスの回避を図る。組織学的検索に加えて、生化学的検討も施行する予定である。
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