平成26年度では、CRISPR/Cas9システムを用いてMitfをノックアウトしたところ、ヒトメラノーマの細胞株によっては抗腫瘍効果の得られる可能性が示唆された。平成27年度では、CRISPR/Cas9-Mitfの導入効率と遺伝子発現抑制効果をさらに高めるため、レンチウイルスによりCas9およびguideRNAを発現させるCRISPR/Cas9システムを用いて、ヒトMitfのvariant4を標的としたplasmid(p)Lenti CRISPR/Cas9-Mitfを合成した。In vitroにおいて、pLenti CRISPR/Cas9-Mitfを電気穿孔法でヒトメラノーマ細胞株HMV-IIに導入したところ、コントロール群の8.2%までmRNAレベルでのMitfの発現が抑制された。pLenti CRISPR/Cas9-Mitfを導入したHMV-II群とコントロールHMV-II群において、細胞数と細胞ヴァイアビリティを観察したところ、96時間後では共に有意差(P<0.05)が得られ、pLenti CRISPR/Cas9-Mitfによる細胞増殖抑制効果が確認された。次に、pLenti CRISPR/Cas9-Mitfを導入したHMV-II群とコントロールHMV-II群からRNAを調整し、mRNAレベルでの遺伝子発現を比較検討したところ、Mitf、RIGI、IFN-beta、SOX2、SOX9、STAT1、STAT2、CXCR、c-Myc、CCR1、Hsp70、MDA5、GATA4、Rac1、TFAP2A、TP53、MTUS1、ID2、RUNX1において有意差が得られた。次いで、pLenti CRISPR/Cas9-Mitfを導入したHMV-IIとコントロールHMV-IIを免疫不全マウスに皮下移植して腫瘍の増殖程度を比較したが、両群に有意差はみられなかった。これらの結果から、ヒトメラノーマHMV-IIにおいてMitf遺伝子をノックアウトすると、in vitroでは癌関連遺伝子や種々の遺伝子の発現が抑制され、その結果として細胞増殖抑制効果が得られたと推察された。しかしin vivoでは腫瘍増殖抑制効果はみられなかった。その原因としては、腫瘍を取り巻く環境(血管、神経、膠原線維や弾性線維など)が、腫瘍の増殖を促進させる何らかの影響を与えている可能性があると推察された。
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