研究課題
BRAF(V600)とNRAS(Q61K/Q61R)変異は、RAS/RAF/MEK/ERKシグナル伝達カスケードを恒常的に活性化し、悪性黒色腫(メラノーマ)の主要な腫瘍原性変異と考えられている。これまでに蓄積されたゲノム解析の結果、メラノーマの進展とともに特定の遺伝子増幅が存在することが指摘されている。本研究では、メラノーマに特徴的な遺伝子増幅領域と浸潤•転移能の関係に焦点を絞り、代表的な増幅領域に存在する遺伝子群の系統的な細胞運動•浸潤解析からメラノーマ悪性化の協調因子を抽出する狙いがある。これまで不死化メラノサイトを用いた安定的な細胞培養系の確立は難しい状況にあったため、これまで不死化因子として実績のあるテロメラーゼ(TERT)を安定的に発現するトランスジェニック(Tg)ラットを作製し、そこからメラノサイトの分離する手法をとった(発現をモニターするためのマーカーとしてEGFPを供発現する)。興味深いことに作出した個体から生まれるTgラットは、新生時から皮膚炎を自然発症する性質を持ち(56%)、CD4およびCD8陽性T細胞の双方が増数していた。これらのTgラットから不死化メラノサイトの分離、培養系を確立して行く予定である。また、前年度において確立したNIH3T3細胞による細胞運動評価系によるスクリーニングから新たなTGFβ1に拮抗して上皮間葉転換阻害活性をもつ化合物を分取した。この化合物は色素系の化合物であり、細胞運動に重要なチロシンキナーゼFAKのリン酸化が阻害されることも判明した。昨年度までの結果を合せると、細胞がん化における異常な脂質代謝経路が浸潤転移の重要な律速段階にあることが考えられた。脂質代謝経路におけるシグナル伝達経路を指標にしつつ、メラノーマの細胞浸潤にかかわる仕組みを追求していきたい。
2: おおむね順調に進展している
過年度の研究成果においてがん代謝に関係した研究から脂質代謝が細胞運動能の亢進のみならず上皮間葉転換と密接に関連していることが明らかになった。新たに色素系化合物が上皮間葉転換を阻害することを見出した。阻害剤を起点に悪性腫瘍の転移•浸潤の一般的な機序に踏み込むことができる点では進歩に価すると考えている。その一方で、不死化メラノサイトの安定的な細胞培養系の確立ができていないため、安定的に不死化を誘導する因子であるTERTを恒常的に発現するトランスジェニック動物を利用することとした。今後はこの動物と不死化メラノサイト培養系を確立し、メラノーマの発がん過程を勘案した細胞系からアプローチしたい。
発光による簡便な細胞運動系のスクリーニング系を用いたがん細胞の運動阻害から上皮間葉転換抑制と密接に関連している状況証拠が揃いつつある。前年度ではがん代謝に関係した研究から脂質代謝経路の役割が注目されたが、メラノーマのドライバー変異を含む細胞を使った実験系でもその位置付けは変わっていない。メラノーマ動物モデルを用いた実験系(細胞の尾静注)があまりにも人工的であるため、臨床を模倣したモデルとは大きくかけ離れている。そのため、Crisper-Cas9を用いたゲノム編集技術を実験動物の応用し、ヒトに近い自然発症モデルを介した転移浸潤系の構築を考えている。このシステムを用いることで、メラノーマが獲得した後天的な変異(代謝経路やエピゲネティック異常)を次世代シークエンサーにより差別化したいと考えている。上記のことはメラノーマのみに限られず、がんの転移浸潤の根幹にかかわる現象であることも云えるが、エピゲネティック修飾が少ないと考えられる新たな不死化メラノサイトの安定的な細胞培養系の確立に挑戦しつつ広い視野での研究を展開したい。
当該年度ではデータベース構築の見直しに時間を費やしたこと、並びに不死化メラノサイトの初代培養系の構築が依然として進まなかったこともあり、結果的に消耗品経費の抑制に至ったことが理由といえる。
最終年度では、トランスジェニック動物由来の不死化メラノサイトの安定的な細胞培養系の確立に挑戦しつつ、さらにCrisper-Cas9を用いたゲノム編集技術を実験動物系に応用する計画を立てている(ベクター構築と動物モデル系導入による支出)。併せて、上皮系がんの代表として乳癌細胞をメラノーマの対照として設定し、双方の比較を行いながら研究展開しながら、未使用額との研究経費のバランス調整を行なっていく。
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