研究課題
長島型掌蹠角化症(NPPK)は非進行性の境界明瞭な紅斑、軽度の過角化や皮疹、多汗を伴う常染色体劣性形式の遺伝形式を示す遺伝性掌蹠角化症である。申請者らはNPPK原因変異として日本人に多く見られる3種のSERPINB7機能喪失型変異を報告後、引き続き原因遺伝子であるSERPINB7のゲノム解析をNPPK患者およびモデルマウスを用いて進めている。平成26年度にはSERPINB7欠損マウスの個体化に成功し解析を行ったが、ヒトと同様の症状や形質を見出すことはできなかったため、本課題では変異不明のNPPK患者のゲノム解析を中心として遂行している。平成27年度は複数の非血縁関係にあるNPPK患者から同一新規ミスセンス変異P277Lを同定した。P277L変異が病原性変異であることを明らかにするために、P277L変異とナンセンス変異をコンパウンドヘテロ接合で有する患者組織切片を抗SERPINB7抗体で免疫組織染色した結果、通常のSERPINB7とは異なる局在を呈し、表皮顆粒細胞内に変異タンパクが滞留していることを検出した。さらに収集した100名を超える患者及び保因者である家族について出身地を確認したところ、P277L変異を有するNPPK患者は九州地方出身者に出現する頻度が高いことが判明した (Shiohama et al. JID 2016)。申請者らはNPPK患者の収集を継続し、典型的な日本人に多く見られる3種のSERPINB7機能喪失型変異のいずれかとコンパウンドヘテロ接合で同定される複数種のミスセンス変異を発見しており、これらも原因変異である可能性が高い。また、SERPINB7のコーディング領域に既知のSERPINB7機能喪失型変異が1つしか見つからない症例があることが判明しており、ゲノム解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
NPPK患者の収集と引き続き遺伝子解析を行い、新規ミスセンス変異をもつコンパウンドヘテロ接合例を複数見出している。新規変異の患者および保因者である家族は全て非血縁関係であるが、3つの典型的な変異のいずれかと必ずコンパウンドヘテロ接合を伴っているため、変異が起こりやすいアレルに注目することで、片アレルしか変異をもたないNPPK患者の原因解明の糸口となることが示唆され、これらの変異アレルの同定を進めている。
患者のSERPINB7遺伝子領域を詳細に解析した結果、日本人でのSERPINB7ゲノム領域は大きく4アレルに分類されることが、申請者らのこれまでの解析より明らかにできた。日本人ゲノムが詳細に集積されているHuman Genetic Variation Databaseや最近公開された東北メガバンク機構の公開データを活用することで、より詳細なゲノム解析を行うことを目標としている。また、SERPINB7のコーディング領域に既知のSERPINB7機能喪失型変異が1つしか見つからない症例が複数例ある。これらの患者ゲノムを解読し、片アレルからしか既知変異が同定されないが臨床症状よりNPPKと診断されている患者の原因変異アレルを解明することを試みる。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件)
Journal of Investigative Dermatology
巻: 136 ページ: 325-328
10.1038/JID.2015.347