研究課題
皮膚は様々な病原微生物から体を守るため、抗菌物質であるヒトβ-ディフェンシン(hBD)やカテリシディンLL-37などを産生するとともに、体内からの水分の蒸散を防ぐことによって、生体を維持するために重要なバリア機能を示す。上記の抗菌ペプチドは、抗菌作用だけでなく、様々な免疫調節作用も有している。hBDとLL-37は乾癬の皮膚では増加しており、アトピー性皮膚炎では抑制されているため、これらのペプチドがケラチノサイトにおいて、タイトジャンクション(TJ)バリア機能を調整しているのではないかと考えた。平成26年度は、hBD-3とLL-37が非定型的プロテインキナーゼC、Rac1、グリコーゲン合成キナーゼ3経路を介して、ケラチノサイトのTJバリア機能を調節することを報告した。平成27年度は、LL-37の特異的受容体を調べたが、同定できなかった。また、LL-37のマウスホモログであるCRAMPのTJバリア機能の調節に対する効果を見られなかった。代わりに、LL-37のアトピー性皮膚炎の痒みに及ぼす影響について調べた。その結果、LL-37とhBD-1~-4の中で、LL-37だけが表皮ケラチノサイトにおける神経反発因子であるセマフォリン3Aの発現と産生を促進した。この効果は、Gタンパク、P2X7受容体とMAPキナーゼERKの細胞内シグナル伝達経路に関与することがわかった。また、hBDの中、hBD-3だけがCCR6受容体、MAPキナーゼとNF-κB経路を介して、ケラチノサイトからの抗炎症性サイトカインであるIL-37の発現を誘導した。以上より、皮膚が産生するLL-37とhBDが抗菌作用を持つ他に、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患における炎症と痒みを抑える可能性があると考えられる
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の計画での①LL-37の特異的受容体の同定をできず、さらに②LL-37のマウスホモログであるCRAMPのTJバリア機能の調節に対する作用を見られなかったが、LL-37のアトピー性皮膚炎の痒み抑制とhBD-3の抗炎症性サイトカインIL-37 の増強作用を明らかにし、論文で発表した。従って、現在の計画はおおむね順調に進展している。
本研究課題の今後は、①LL-37のアトピー性皮膚炎の皮膚バリア機能に及ぼす影響、②他の皮膚由来抗菌物質のTJバリア機能の調節に及ぼす影響と③他の皮膚由来抗菌物質のアトピー性皮膚炎の皮膚バリア機能に及ぼす影響。
年度内に使い切れなかったので、次年度に繰り越す。
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Journal of Investigative Dermatology
巻: 135(11) ページ: 2887-2890
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Journal of Dermatological Science
巻: 77(1) ページ: 46-53
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