研究実績の概要 |
脳内DNAメチル化の変化が発達期に与える可能性を、マウスを用いて検証してきた。出生後のメチル化変化を制限するために、メチル化反応に使われるメチルドナーを欠乏させた食事をマウス生後3-6週に与えて(メチルドナー欠乏群、以下FMCD群)、発達期=小児期にDNAメチル化が制限されるモデルとした。このメチルドナー欠乏群はメチルドナー制限後(6週齢)でも、発達後の12週齢期においても、海馬におけるメチル化や記憶に関連した遺伝子群(Dnmt3やAMPA受容体遺伝子)のメチル化を変化させ、恐怖や不安反応に違いをもたらした(Ishii et al.,2013,Tomizawa et al.,2015)。本研究では、そのように発達期に脳内メチル化の変化を受けたオス個体を親(F0)とする子ども世代のオス(F1)が行動的に変化をきたすかどうかを分子レベルの背景の変化ともに検証した。結果として、F0世代に不安様行動の減少、恐怖反応消去の遅延と再発、海馬におけるカルモジュリンキナーゼα(CaMK2α)の発現低下が見られたが、F1ではF0世代とは異なる行動と遺伝子発現結果であった。F1世代では不安の増大、恐怖消去の促進、一方でCaMK2αの発現上昇が見られた。このことから、発達期のメチルドナー欠乏は次世代にストレス応答性や恐怖に対する脆弱性に影響を及ぼす可能性が示唆された。この結果は第40回日本神経科学学会にて発表した。また、成果は現在Gene, Brain and Behavior誌に投稿中である。
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