研究課題
これまでの全ゲノム関連解析(GWAS)データを用いたメタ解析結果から、BDKRB2(bradykinin receptor B2)遺伝子が有意な関連をもつことを見出している(Otowa et al., 2012)。しかし、最も有意な部位においても全ゲノムレベルで有意とはならず(p>10-6)、一つ一つの遺伝子の病気に及ぼす影響は小さいため(オッズ比<1.3)、多数の遺伝子が疾患発症につながる可能性が考えられる。そこでGWASデータから、3種類の異なったパスウェイ解析ソフト(DAVID、i-GSEA4GWAS、ICSNPathway)を利用して解析を行った。そうしたところ、免疫に関係するパスウェイがいずれの解析でも有意であったため、HLA領域(HLA-BとHLA-DRB1)に注目し、新たにタイピングを行った(疾患群744名と健常群1418名)。その結果、パニック障害患者でHLA-DRB1*13:02保持者の割合が健常者よりも有意に高いことを見出した (p = 2.50x10-4, オッズ比=1.54)。免疫関連遺伝子、特にHLA-DRBとパニック障害が関連することを初めて報告した(Shimada-Sugimoto et al., 2015)。今年度はさらに環境要因の影響を考慮し、GWASに加えて新たに全ゲノムDNAメチル化解析を96名(年齢と性別をマッチさせた48症例と48対照群)に対してIllumina社製HumanMethylation450 Beadchipを用いて網羅的に行った。そこで得られたデータの品質管理の方法の検討を行った。メチル化の結果からサンプルの白血球分画などの割合を推定した結果、患者群でCD4+T cellの割合が高くなっており、解析上考慮に入れる必要があることが分かった。予備的な段階ではあるが、染色体10番領域で全ゲノム有意な部位が見出され、上記部位のメチル化領域の再確認を行っているところである。
2: おおむね順調に進展している
パニック障害と免疫(特にHLA-DRB)との関連について国際専門誌への報告を行った。また、今年度予定していたパニック障害の全ゲノムDNAメチル化関連解析を行い、候補領域の絞り込みを行えた。以上により、当初予定していた研究目的を達成しているといえる。
今後の研究については、サンプル規模の拡大、PAN・IC(Panic International Consortium)などのコンソーシアムを通じての他研究グループとの共同研究の継続(白人を中心とした不安障害サンプルとの比較検討)、今年度の全ゲノムDNAメチル化関連解析の結果見出された候補遺伝子の再確認を行う。パニック障害の症状の個人差を考えて、今回の研究で見出される候補部位については遺伝子のメチル化量と臨床症状(不安症状の程度や服薬量、発症年齢など)の関連についても検討し、疾患のメカニズム解明を目指す。以上により、当初の研究計画の変更はない。
概ね予定通りの予算使用となっているが、当初計画していたDNAメチル化解析の対象サンプル数を数名分減らしたことにより次年度使用額が生じた。
上記については、次年度に繰り越しの上で、解析領域の再現解析用の試薬費用に充てる予定としている。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件)
Psychiatry and Clinical Neurosciences
巻: 46 ページ: 96-103
10.1186/s13030-015-0035-3
Brain, Behavior, and Immunity
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1016/j.bbi.2015.01.002