GWASにて物質依存に共通して働くことが示唆されたNrCAMの依存における機能について詳細解析を行った。ヒトにおける依存症は個人個人が社会環境因子に影響を受けて修飾された表現型を示すため、脳内分子ネットワークの比較解析は容易ではない。よって本研究ではモデル動物を用いてNrcam機能が関与する分子ネットワークと依存の表現型をヒト解析に先行して明らかにすることとした。Nrcamノックアウトマウスをモデルとして用い、それぞれの中間表現型に関与する脳内分子の遺伝子の発現パターンの相違を解析した。Nrcamノックアウトマウスのheterozygote型雌雄を自然交配させて、野生型、heterozygote型、homozygoteノックアウト型の仔マウスを得た。薬物を投与されていないNaiveマウス、2 mg/kgの覚醒、および20mg/kgのコカインを腹腔内投与した薬物依存マウスを作製した。脳は前頭、線条体、海馬、腹側中脳に分割してRNAを抽出して網羅的遺伝子発現解析を行った。生理食塩水投与群との比較において遺伝子型間での線条体と腹側中脳領域におけるRNA発現変化の相違を比較定量解析した。定量解析は前年度までに得た覚せい剤を投与した同マウスについてマイクロアレイによるトランスクリプトーム解析知見に基づき選択した22の遺伝子に着目し、コカイン投与群にて同様の変化が認められるのか確認を行った。結果、線条体と腹側中脳では異なる発現変化がそれぞれに認められることが示唆された。本研究はNrCAMが薬理効果の異なる依存性物質の依存形成に関わる根幹メカニズムに働いているという仮説の検証と関連する神経ネットワークの解明を目的とした。これまでの解析ではGls、Grm2、Gabrg2、Slc17a7、Drd5は両薬剤にて発現変化する可能性が示唆された。
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