研究課題/領域番号 |
26461717
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中村 由嘉子 名古屋大学, 医学系研究科, 研究員 (60614485)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 網羅的エピゲノム解析 / 周産期 / うつ病 |
研究実績の概要 |
本研究は、周産期うつ病の病因・病態に関与する生物学的因子を同定し分子病態に基づいた産後うつ病の診断法開発を目指すものであり、平成28年度までに網羅的メチル化解析とin silico解析を行い、候補分子の特定を目指した解析を行った。 エジンバラ産後うつ病自己評価票による産後の抑うつ状態の評価を用いて「非抑うつ群」と「産後抑うつ群」を抽出した。網羅的エピゲノム解析には、Human Methylation 450 BeadChip を用いた。産後抑うつ群14例、非抑うつ群10例の計24例に関して、各々、産前および産後に採血した末梢血より抽出したDNAのメチル化状態の解析を行い、計48例の網羅的メチル化解析を実施した。さらに、この結果を確認するため、独立したサンプルを用いて、産後抑うつ群4例、非抑うつ群8例の網羅的メチル化解析を行った。よって、これまでに計60例の網羅的メチル化解析の実験を完了した。 産後抑うつ群、非抑うつ群、各群でウィルコクソン符号順位検定を行い、産前と産後のメチル化頻度に有意差のあるサイトを確認した。さらに両群の比較を行い、産後抑うつ群で特異的にメチル化頻度に差があるサイトを抽出した。ウィルコクソン符号順位検定を用いて確認したところ、産後抑うつ群では43,821サイトで、産前と産後でメチル化頻度に有意差が確認された(p< .01)。このうち、33,257サイトは非抑うつ群においても産前産後でメチル化頻度有意差が確認され(p< .01)、産後抑うつ群で特異的にメチル化頻度に変化がみられたのは10,564サイト、うち産前産後のβ値の差分の絶対値が0.1より大きいものは15サイトであった。この15サイトは全て産前に比べ産後のメチル化頻度が高かった。上記15サイトには10の遺伝子が含まれており、産後抑うつ群で特異的にメチル化頻度に変化がみられる遺伝子の候補と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度までに、予定していた非抑うつ群:計28例(産前14例、産後14例)、産後抑うつ群:計20例(産前10例、産後10例)の、計48例の網羅的メチル化解析を完了した。さらに、これらの 解析結果の妥当性と再現性を検証するための、産後抑うつ群4例、非抑うつ群8例の独立したサンプルを用いた網羅的メチル化解析も完了した。これにより、計60例の網羅的メチル化解析の実験を行い、予定していた網羅的メチル化解析を完了した。産後抑うつ群、非抑うつ群における産前・産後のメチル化状態を比較した結果については、これらをまとめ、2016年8月に開催された第13回日本うつ病学会総会にて発表した。 平成28年度は、網羅的メチル化解析により得られたデータを用いて、産後うつ病の病態に関わる生物学的因子の同定を目指して解析を行っていたが、その解析中に、生物統計学の専門家のアドバイスを受け、複数の統計解析手法を用いての検討を行う必要があることがわかった。これらの統計解析は、蓋然性の高い結果を得るために必要な解析であり、上記の統計解析に想定以上の時間を要している。そのため、統計解析完了後に行う予定であった、Pyrosequencerを用いた、確認のための実験実施が遅れており、これが今後の課題である。 遅れている解析については、29年度中に実施し、当初の目標である、周産期うつ病の病因・病態に関与する生物学的因子の同定を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、非抑うつ群と産後抑うつ群において、それぞれ、産前および産後に採血した末梢血由来のDNAサンプルを用いて網羅的メチル化解析を行った。これにより、産後抑うつ群特異的にメチル化頻度に変化がみられたプローブを明らかにし、産後の抑うつ状態に関連すると考えられる候補遺伝子を見出すことができた。さらに、メチル化頻度に差のある領域が転写不活性化と密接に関与することを確認するなど、一定の成果を得ることができた。また、これらの候補遺伝子を用いてPathway解析も実施した。Pathway解析には、オープンソースのネットワーク 可視化ソフトウェアであるCytoscapeを用いた。その結果、いくつかのシグナル系を、産後の抑うつ状態に関連するPathwayの候補として検出することができた。 平成29年度は、これまでに得られた結果を踏まえて、現在遂行中である、複数の手法を用いた統計解析を完了させる。さらに、独立のサンプルの結果を用いた解析を進め、産前・産後の比較を行った際と、独立サンプルを対象にした際に、同様の結果が得られるか否かの検証を行う。加えて、統計解析完了後にPyrosequencerを用いた確認実験を行い、Human Methylation 450 BeadChipとは異なる実験手法を用いて、再度結果を検証する。これにより、周産期うつ病の病因・病態に寄与する生物学的因子の同定を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
網羅的メチル化解析により得られたデータを用いて、産後うつ病の病態に関わる生物学的因子の同定のための解析中に、生物統計学の専門家のアドバイスを受け、複数の統計解析手法を持強いての検討を行う必要があることがわかった。その、統計解析手法に想定以上の時間を要した。これにより、当初予定していた統計解析後に実施する確認実験が遅れており、そのため確認実験にかかる使用額が、予定よりも少なかったために差が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
遅れている解析については、29年度中に実施し、pyrosequencing法を用いた解析にかかる消耗品費に使用する。
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