現代日本では自殺が大きな社会問題になっている。水道水に含まれる微量リチウム濃度が高い地域では自殺が少ないという報告が話題になっているが、ヒトの研究ではバイアスが多く存在し検証は難しい。自殺の中間表現型となりうるものの1つとして衝動性・攻撃性はそのリスクを高める要因となることが知られている。マウスにおいて超低濃度リチウムを長期間投与することにより衝動性を低下させる薬理効果があるかどうかを検証する。C57BL6雄のマウスを使用。炭酸リチウムを水道水に溶かし、マウスの飲料水として使用する。出生4週後より投与開始し100-200日間投与を行う。リチウムの濃度は50 mg/Lと1 mg/L (大分の水道水のリチウム濃度は約0.08 mg/L、長崎の水道水のリチウム濃度は質量分析器で検出限界以下)。その後、行動実験(Open Field test、Resident-Intruder test)を行った。Li 50 mg/L投与群ではLiの血中濃度は16.67 μg/Lと上昇がみられたが、Li 1mg/L投与群と水道水投与群ではそれぞれ、0.12 μg/L 、0.19 μg/L とリチウムの血中濃度の差はみられなかった。居住者-侵入者テストにおいて炭酸リチウム投与群は、水道水投与群と比べて50 mg/Lで初回攻撃潜時の延長がみられたが、1mg/L投与群では延長はみられなかった。Open field testにおいてはリチウム投与群で中心円滞在時間の延長と活動性の低下がみられた。Li 50 mg/L投与群では水道水投与群に比べて脳内のGSK-3βの活性が上がっている可能性が示唆された。以上からリチウムの血中濃度が少しでも上昇すれば、マウスで衝動性は低下するが、それとは別に超低濃度のリチウム投与で、マウスにおいて、なんらかの行動を変容させる作用がある可能性があることが示唆された。
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