研究課題/領域番号 |
26461741
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
布村 明彦 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (60241436)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 老年精神医学 / うつ病 / 認知症 / アルツハイマー病 / 脳画像 / アミロイドβ / 酸化RNA / 電気けいれん療法 |
研究実績の概要 |
50歳以上のうつ病患者50例(DSM-IV-TR大うつ病性障害,および双極I型あるいは双極II型障害うつ病エピソード)を対象に,入院直後と退院直前のそれぞれ2週間にうつ病評価尺度(HAM-D, BDI-II, GDS),認知機能評価尺度(MMSE, CDR, WMS-R論理記憶, WCST, 言語流暢性課題),ならびにアルツハイマー病(AD)と関連する脳画像(MRI,SPECT)および血液学的各種バイオマーカー検査(血漿Aβ40/42,BDNF,ホモシステイン,酸化ストレスマーカー,APOE遺伝子型など)を施行した. 退院直前のGDSおよびHAM-Dと海馬傍回萎縮度との間,ならびにBDI-IIとAD特異領域の血流低下度との間に正相関が認められた.また,退院直前の血漿Aβ40に関しては,BDI-IIとの間に正相関,文字流暢性との間に逆相関が認められた.さらに,入院直後と退院直前の血漿Aβ40と海馬傍回萎縮度との間にも正相関が認められた. うつ病治療のために薬物療法のみを行った群と電気けいれん療法(ECT)を行った群を比較すると,ECT群では治療後に血漿Aβ40が有意に低下し,ECT施行回数については,HAM-D,BDI-II,および文字流暢性の改善度との間に正相関,退院直前のAD特異領域の血流低下度との間に逆相関が認められた. また,抗うつ治療前後の認知機能レベルによって対象を正常認知機能群,軽度認知障害MCIから正常認知機能への回復群,ならびに認知機能非回復MCI群の3群に分けると,ADハイリスク群と考えられる非回復MCI群では,治療前において他の2群より有意に血漿Aβ40が高く,文字流暢性が低かった.血中酸化RNAの治療前後の変化はAD特異領域の血流低下度の変化と相関していたが,認知機能予後を推測する機能は乏しかった. 以上のことは,うつ病とADの密接な関連性を示唆するのみならず,今後のAD先制医療のバイオマーカーならびに介入戦略の開発上も興味深い.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始から2年経過したが,本研究の中核的対象である高齢者うつ病患者50例に関して,抗うつ療法前後におけるAD関連マーカーの変化を中心に,血液学的・脳画像的ならびに神経心理学的に検討することができた.その結果,高齢者うつ病患者において各種AD関連マーカーとうつ病評価尺度や認知機能障害との間に関連性が認められた.さらに,ADハイリスク群としてMCIを伴う高齢者うつ病群を抽出した時に,抗うつ療法によって認知機能が回復する群と回復しない群が存在するが,治療前においてすでにその予後予測に寄与し得るマーカーが同定され,脳刺激療法による可逆性も示唆された. 以上のことは,うつ病とADの密接な関連性を強く示唆するのみならず,今後のAD先制医療のバイオマーカーならびに介入戦略の開発上も興味深い知見である.このように期待された成果が整いつつあることから,研究の進展状況はおおむね順調と考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今後はさらに,健常高齢者群,うつ病を伴わないMCI群,早期AD群ならびに早期レビー小体型認知症群の各群の症例も集積し,各種パラメータの群間比較を行う.高齢期において正常認知機能から認知症発症に至るより幅広いスペクトラムの中で,これまでに抽出された認知機能予後予測因子の候補がどの程度機能し得るのか,詳細に解明したい.その解析を通して,うつ病から認知症,あるいはMCIから認知症へのconversionに関して,予後予測や介入手段の確立に向けた有意義な知見が得られると期待される.
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費は実験器具・試薬の節約などによって予定額を下回ったが、研究遂行上重要な心理検査(うつ病評価尺度、認知機能検査)の実行目的で臨床心理士を非常勤雇用するために人件費・謝金の支出を要した。旅費およびその他(委託解析費など)の支出をカットして人件費・謝金に充当するなどの調整を行ったところ、最終的に123,976円の余剰が生じたため、次年度に繰り越すものである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度も臨床心理士の非常勤雇用が研究遂行上必要であるため、繰り越し金は当該人件費・謝金として有効に活用する計画である。
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