高齢うつ病から認知症発症に至る過程の予後予測マーカーや介入法開発の手がかりを得るために,以下の検討を行った.50歳以上のうつ病入院患者50例(平均MMSE入院時24.8,退院時28.0),うつ病を伴わない健忘型MCI患者10例(平均MMSE 27.3),および軽症レビー小体型認知症(DLB)患者6例(平均MMSE 27.7)を対象に,うつ病評価尺度,認知機能評価尺度,脳画像,および血中マーカー検査を施行した. うつ病群では,退院時のGDSおよびHAM-Dと海馬傍回萎縮度,ならびにBDI-IIとAD特異領域の脳血流低下度の間に正相関が認められた.また,退院時の血漿Aβ40はBDI-IIと正相関,文字流暢性と逆相関していた.入・退院時の血漿Aβ40と海馬傍回萎縮度との間にも正相関が認められた. うつ病治療のために薬物療法のみを行った群とECTを行った群を比較すると, ECT群では治療後に血漿Aβ40が有意に低下し,ECT施行回数は,HAM-D,BDI-II,および文字流暢性の改善度と正相関し,アルツハイマー病(AD)特異領域の脳血流低下度と逆相関した.また,抗うつ治療前後の認知機能レベルによってうつ病群を認知機能正常群,MCIから正常へのリバート群,および非リバートMCI群の3群に分けると,認知症ハイリスク群である非リバートMCI群では入院時点で他の2群より血漿Aβ40が高く,文字流暢性が低かった.文字流暢性の低下は,非うつ病性MCI群や軽症DLB群には認められず,うつ病から認知症発症にいたる過程に特異的である可能性がある.血中酸化RNAは,うつ病治療前後でAD特異的脳領域の血流低下度と相関して変化したが,認知機能予後の予測機能は乏しかった. 以上の結果から,高齢うつ病から認知症発症に至る過程における簡便な予後予測マーカーの可能性や脳刺激療法による介入の有効性が示唆された.
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