研究課題/領域番号 |
26461742
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
入谷 修司 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60191904)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 死後脳 / 統合失調症 / 神経病理 / 神経ネットワーク |
研究実績の概要 |
本研究課題の目標は、1、分子生物学的な背景の明確な疾患死後脳において、モテル動物などで確認された所見を手かかりに神経病理学的に検証 することおよび、2、脳のマクロ所見からの検討て、萎縮所見のある疾患死後脳の顕微鏡観察 をおこない、神経画像上で観察される萎縮の様態についてミクロの組織学的検証することである。 1、については、分子遺伝学的背景のよくわかっている統合失調症死後脳、すなわち、カルホニルストレス性統合失調症(GLO1 遺伝子 フレームシフト、22q11.21 欠失、MBD5 欠失 について検討した。。後方視的に診療録から、再度臨床症状を検討しDSM-5の診断基準に適合することを確認した。つぎに脳組織から、脳標本染色(HE、ニッスル染色)を作成し、古典的脳神経病理学的観察を行った。この観察においては、22q11.21 欠失、MBD5欠失脳においては、大脳皮質白質の形態学的変異や細胞構築像に異常は見いだせなかったが、GLO1遺伝子フレームシフトのある脳に関しては、白質の脱随所見が見いだされた。 2、については、統合失調症脳10例および、年齢をマッチさせた精神神経疾患のない対象脳9例に対して、関心領域である上側頭回皮質のミエリンタンパクの発現を検討した。脳標本に対してMOG(Myelin-Oligodendrocyte-Glycoprotein)の抗体を用いて免疫染色おこない、統合失調症死後脳におけるミエリンタンパクの発現と、正常対象脳のそれと比較した。その結果、より加齢の統合失調症脳においてミエリンの発現が上側頭回皮質の中間層で低下している傾向が見いだされた。 一方で、ABCA13の欠失のあるニホンザルの脳組織について検索した。HE染色およびニッスル染色標本における観察において、皮質の細胞層構造が不明瞭で、皮質の錐体細胞の狭小化傾向、細胞密度の低下傾向が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までに、分子遺伝学的背景のよくわかっている統合失調症死後脳(カルホニルストレス性統合失調症(GLO1 遺伝子 フレームシフト)、22q11.21 欠失、MBD5 欠失 )についての、神経病理学的な観察について、古典的神経病理学的な観察をおこなった。従来、このような報告はなく、その意味で新しい視点の研究である。いままでの検討結果で、カルホニルストレス性統合失調症においては、白質の変性像(髄鞘の密度現象)が観察された。いままでに、このような神経病理学的な検討の報告はなく、さらに観察・検討を加えていく必要はあるものの、学術的な進歩であると考える。さらには、この脳で、ストレス物質の脳組織上での局在や分布を診ていく必要がある。よって、この研究をほりさげて遂行するために、免疫染色用の脳組織切片を作成するなど、引きつづきのさらなる研究の準備をおこなった。 一方精神疾患との関連が推量されているABCA13の遺伝子欠失のニホンザルの脳組織病理について検索した。古典的な神経病理観察において、皮質の細胞層構造が不明瞭で、皮質の錐体細胞の狭小化傾向、細胞密度の低下傾向が観察された。このことは、ABCA13欠失が精神疾患との関連がいわれていることと考え合わせると、このような所見は興味深く、さらなる検討課題を提供している。そのため、免疫染色などの特殊染色をすすめるために、浮遊切片を作成した。全体の研究概要から概ね進捗については、順調と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
分子遺伝学的背景のよくわかっている統合失調症死後脳(カルホニルストレス性統合失調症(GLO1 遺伝子 フレームシフト)症例、22q11.21 欠失症例、MBD5 欠失症例 )については、古典的神経病理学的観察のつぎに、脳の機能的側面、すなわち神経ネットワークにターゲットをあてて検討する。死後脳の前頭葉、側頭葉、側頭葉内側、後頭葉の皮質に対しTH,Parvalbumin,NPYについて免疫染色をおこない、神経伝達ネットワークの変異の有無などを検討する。そこから、遺伝背景との関連においての機能的な側面を検証する予定である。 さらに、GLO1 遺伝子 フレームシフトの脳においてはストレス物質の免疫染色をおこない、統合失調症脳でのストレス物質の分布や局在について、この遺伝子のシフトのない脳との比較において検討を加える予定である。それが、どのように組織レベルでの神経ネットワークに与える影響を組織病理学的に考察する。 一方でABCA13欠失のニホンザルの組織病理については、古典的な神経病理学的観察をさらに定量的な検討を加える予定である。さらに、脳の前頭葉、側頭葉、側頭葉内側、後頭葉の皮質に対しGABAergic細胞の指標のCalbindin28KD、およびParvalbuminの免疫染色をおこない、神経ネットワークの変異について観察する予定である。その際に、ABCA13の欠失がないことの確認がされている個体と、行動異常が観察されていない群れにいた野生種の個体を対象として同様な染色をおこない、ABCA13の欠失による組織上の変異について明確にし、統合失調症の病態解明につなげる方策である。
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