研究課題/領域番号 |
26461745
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
柳田 寛太 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任研究員(常勤) (70467596)
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研究分担者 |
田上 真次 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40362735)
大河内 正康 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90335357)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アミロイド / γ‐セクレターゼ / CRISPR/CAS9 |
研究実績の概要 |
γ-セクレターゼ非依存的なβAPPの膜内切断メカニズムを解析するため、γ-セクレターゼの主要構成タンパクであるプレセニリン1(PS1)及びプレセニリン2(PS2)を欠損した細胞をCRISPR/CAS9法を用いて作成した。PS1とPS2のExon3またはExon4の中でCas9が認識するPAMモチーフを含む23塩基の配列を4カ所ずつ選び、このDNA配列に相補的なRNA(ガイドRNA)とCAS9タンパクを同時に発現するプラスミドを作製した。また、ターゲット配列がCas9で切断された指標として、目的の配列がCas9で切断されるとGFPが発現するプラスミド(Mashiko 2013)も作成した。これらのプラスミドをAβ産生が増加する家族性アルツハイマー病変異(スウェーデン変異)βAPPを恒常的に発現させたHEK293細胞(swAPP/HEK細胞)にトランスフェクションし、最もGFPの発現が多いプラスミドをPS1、PS2それぞれ1個ずつ選んだ。最初にPS1をノックアウトするため、PS1をノックアウトするプラスミドをswAPP/HEK細胞にトランスフェクションし、GFPが発現している細胞をFACSで分取した。細胞を希釈して播種し、増殖した細胞のコロニーから48個のクローンを選んだ。それぞれの細胞のゲノムDNAを調製してCas9で切断された部位の配列をシークエンスすると、32クローンでDNAの切断が見られ、そのうち21クローンでフレームシフトが起こっていた。フレームシフトが起こっている細胞を10個選び、PS1がノックアウトされているかをWestern Blotで確かめた。この中で完全にPS1が検出されないクローンを選び、同様の方法でPS2をノックアウトした。PS2はノックアウトの効率がPS1よりも悪かったが、1クローンのみPS1とPS2が完全に検出されない細胞が得られた。この細胞の培養上清中のAβをELISAで測定すると、検出限界以下であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目標通りPS1とPS2をCRISPR/CAS9法でノックアウトした細胞を作製する事が出来た。CRISPR/CAS9法は比較的新しいゲノム編集の手法であるため、標的遺伝子のどの配列をターゲットにすれば効率よくノックアウトできるのかは不明である。そこでPS1、PS2遺伝子のそれぞれ4カ所をターゲットにしたガイドRNAを発現するプラスミドと目的の配列が切断されるとGFPが発現するプラスミドを作製し、swAPP/HEK細胞にトランスフェクションした。その結果、どの細胞もGFPが発現していたことから、選んだ配列はどれもCas9で切断されることが分かった。この中から最も効率が良いプラスミドをswAPP/HEK細胞にトランスフェクションすると、PS1はかなり高い割合でノックアウトする事が出来たが、PS2はPS1ほど効率が良くなかった。HEK293細胞は染色体に異常があり、部分的にトリソミーになっている。Cas9で切断したPS2の遺伝子をシークエンスすると3種類の異なる波形が見られたことから、PS2遺伝子のある1番染色体がトリソミーになっていて完全にノックアウトしにくいと考えられる。しかし、1クローンのみ完全にPS1、PS2タンパクの発現が見られず、Aβの産生も認められない細胞が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
PS1とPS2タンパクがWestern Blotで検出されず、培養上清中にAβが検出されない細胞を作製した。しかし、Cas9が認識する配列は20塩基程度なので、同じ配列が他にもあり、そこが切断されてAβ産生が起こらないことも考えられる。そこで、PS1、PS2がノックアウトされてAβ産生が起こらない事を確かめるために、今回作成した細胞にPS1及びPS2遺伝子を発現させ、Aβ産生が回復することを確かめる。そしてこの細胞からγ-セクレターゼによってβAPPが膜内で切断された時に生成する3から5アミノ酸のペプチドを調製し、LC-Msで定量する。これらのペプチドが検出された場合、様々なプロテアーゼやペプチダーゼ阻害剤を作用させ、ペプチドが検出されない薬剤を探す。
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次年度使用額が生じた理由 |
CRISPR/CAS9による遺伝子ノックアウトは初めて行う実験だったので、選んだターゲット配列がCas9で切断されず、何度かやり直すことを想定していた。しかし選んだ配列で予想以上に上手くPS1とPS2がノックアウトできたので、やり直す必要が無くなった。また、大学の共同実験施設のDNAシークエンサーやFACSを有料で使用する予定であったが、共同研究をしている研究室で借りることができたので、その分費用がかからなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
アミロイドβのELISAキットやLC-Msの溶媒、プロテアーゼ阻害剤等の高価な消耗品に使用する。また、これまでに報告のないCRISPR/CAS9法によるPS1とPS2のダブルノックアウト細胞を作製したので、この成果を国内外の学会で報告するための旅費に使用する。
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