研究課題
社交不安は社交場面に対する著しい不安と定義され,社交不安が高い者は社会的な場面での振る舞いで羞恥感情を抱きやすく,他者からの否定的評価に敏感である。様々なレベルの社会不安をもつ健常者を対象として、社会的排斥による苦痛と情動的サポートによる苦痛の軽減に社交不安がどのように関連するかを、社会的排斥や情動的サポートに対する反応をみるサイバーボール課題を用いて脳機能画像手法により検討した。その結果、情動的サポートを受けた時、背外側前頭前野の賦活が社交不安の程度と正の相関を示すとともに、主観的社会的苦痛と負の相関を示した。一方、社会的排斥時の脳活動と社交不安には有意な関連を認めなかった。このことは、高い社交不安はサポート時の社会的苦痛の軽減に関連し、社交不安が高い者ほど他者からの好意的なメッセージを認識する能力も高いこと、社交不安が高い者は日常生活で経験する不安を他者からの肯定的評価と認知制御を用いてコントロールしている可能性を示唆していた。これらの基礎検討をふまえ、認知行動療法の加入前後の効果に関する検討として、閾値下うつの大学生を認知行動療法の介入群と統制群に無作為に割りつけ、その前後の脳機能変化について検討を行い、データサンプリングを完了した。
2: おおむね順調に進展している
昨今、精神科臨床では、認知行動療法(CBT)に大きな関心が集まってきている。心理学的視点から作用機序の説明を試みた研究は多いが、神経科学的機序は解明されていない。脳内のどのような機序を介してCBTが効果発現に至るかを解明することは、医学的な治療としてCBTを臨床に用いる際に必要不可欠と考えられる。本研究の目的は、CBTの脳機能画像研究手法を用いてCBTの神経科学的基盤を解明することにある。昨年度は健常者を対象とした基礎検討を行い、今年度はCBTの介入群と統制群を用いた無作為化比較試験を行った。昨年度の基礎研究の結果は論文化でき、今年度の目標であるCBT前後でのデータサンプリングは完了しており、概ね順調に経過していると考えられた。
入学時に日本語版Beck Depression Inventory-II (BDI-II)の得点が10点以上の大学生(18-19 才)を対象に、構造化面接診断面接(Composite International Diagnostic Interview)とBDI-IIを用いたスクリーニングを実施した。その際に再度測定したBDI-Ⅱ点数が10点以上で、かつ過去1年の大うつ病エピソードを除外した61名を介入群(n = 30 平均年齢18.2、SD = 0.4、男性19名、女性11名)と統制群(n = 31 平均年齢18.2、SD = 0.4、男性21名、女性10名)へ無作為割り付けし、CBTによる介入を行った。なお、介入へ参加し、かつ同意のとれた者(介入群、n = 29、平均年齢18.2、SD = 0.4、男性19名、女性10名; 統制群、n = 30、平均年齢18.2、SD = 0.4、男性21名、女性9名)に対し、fMRI実験を実施した。これらのデータのうち、服薬歴ならびに脳活動データに不備のあるものを除外し解析対象とする。臨床指標および行動指標について群(介入群 vs 統制群) × 時期(介入前 vs 介入後)の分散分析を行い、さらに介入前後で有意差の認められた各指標について、症状改善との関連を検討するために相関解析を実施する予定である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件)
PLoS One
巻: 10 ページ: e0127426
10.1371/journal.pone.0127426.