炎症の際には補体が活性化し、膜侵襲複合体(MAC)が形成され細胞の破壊に寄与することが知られている。またビトロネクチン(Vn)はMAC形成阻害作用を有することが明らかにされている。そこで当病態においてもMACが攻撃因子として関係性が成立するのか評価した。 14月齢の野生型、海馬弱萎縮タウマウス、強萎縮タウマウス、Vn欠損タウマウスの海馬スライスに免疫組織化学染色法を施して、神経軸索およびMACの発現レベルを比較した。その結果、野生型および海馬弱萎縮タウマウスの歯状回では神経軸索の発現が保たれているも、強萎縮タウマウス、Vn欠損タウマウスでは発現が低下していた。一方、野生型および弱萎縮タウマウスの歯状回ではMAC発現が低下していたが、強萎縮タウマウス、Vn欠損タウマウスでは発現が増加していた。このことからタウオパチー海馬萎縮に寄与する軸索の消失とMAC発現間に相対関係があることを確認した。また、14月齢のタウマウス海馬切片を層毎に比較して観察すると、弱萎縮タウマウスではVnが蓄積している歯状回分子層でのMAC発現が低く、Vnが蓄積していないCA1では増加していた。その一方で、海馬萎縮が強い個体ではCA1だけでなく歯状回分子層にもMAC発現増加が及んでおり、Vn欠損タウマウスも同様の結果であった。またVnが蓄積したタウマウスの海馬に局在するグリアにはC5a受容体の発現が低下している一方で、Vn欠損タウマウスの海馬では補体C5a受容体陽性グリアの発現増加を認めた。Vnが蓄積する局所では補体侵襲に伴う炎症や細胞破壊が制御されているものと見込んでいる。タウオパチーにおけるVn蓄積現象は病態進行に抗する生理的な防御反応であり、個々のタウマウスで引き起こされるこれら一連の現象の程度の違いがイメージングで計測される脳萎縮程度の個体差として反映されたものと思われた。
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