自殺は、病院における主要重大医療事故の一つである。岩下ら(2006年)、Kawanishiら(2007)の先行研究により、わが国の病院で多くの自殺事故が発生しており、わが国の自殺者総数の数%を占めていることが示唆された。報告書らは、平成27年度に公益財団法人日本医療機能評価機構認定病院患者安全推進協議会に所属する全国1376病院を対象に、病院内の自殺事故とその詳細、事故後の事後対応を調査し対策を検討する目的で研究を行った。当該調査に際して、精神科病床のない、あるいはこれを有する一般病院、および精神科病院に対応した質問紙が作成された。質問紙は平成27年中に配布・回収され、平成28年度中に集計・解析した。結果として、529病院(38.4%)より回答があり、432の「精神科病床のない一般病院」の19%で3年間に107件、63の「精神科病床を有する一般病院」の67%で74件、そして34の「精神科病院」の79%で81件の入院患者の自殺事故が2012-2015年の間に生じていた。一般病院の自殺事故の36%はがん患者であり、精神科病床以外の病棟で生じた自殺事故の50%を占めていた。その他、自殺手段、自殺の生じた場所・時間帯、直前の出来事、そして罹患していた疾患(精神・身体疾患)など詳細な臨床データと病院カテゴリーごとの特徴が明らかとなった。さらに、事後対応においては、事故発生直後の医療者当事者に対するケアの不足の実状が明らかとなり、事故後の各種トラブルの実状も明らかとなった。これらの結果は、日本医療機能評価機構患者安全推進協議会が事業として実施している院内自殺の予防と事後対応研修会プログラムに反映され、また、同協議会による院内自殺予防対策と事後対応強化のために予定されている提言の初案作成に援用された。
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