研究実績の概要 |
「はじめに」自閉症スぺクトラム障害(ASD)でも、oxidative stressによる脳機能のダメージが病態要因として提起され、その脳科学的基盤として、1) antioxidant capacityの脆弱性、2) oxidative stressの増強に起因するantioxidant capacityの低下、3)glutathioneの生成障害、4) oxidative stressによるミトコンドリア機能障害 (MD) など多様な仮説が提唱されている。私達はこの移行機序を考察中である(Minirev Med Chem, thematic issue, accepted, 2014)。日本ではASDの病態としてMDの中のelectron transport complexの機能不全 (Anitha et al, 2013) が報告されたのみである。 これらの4つの仮説では診断や病態にかかわるbiomarkerが多数報告されている。重要なことは、痙攣や神経系障害を随伴するASDとantioxidant機能の低下が主病態のDSM-IV-Rの診断基準に記載されている典型的なASDはMD症状を随伴するASDとはヘテロな病態を持つので、2者を区別して医療的対応しないと、予後や治療法について、関係者の錯綜と誤解を招く恐れがある。 「私たちの研究知見」 典型的な中核症状を持つASDの17例でoxidative stress の影響を検索するために、1)血漿中のantioxidant (superoxide dismutase, ceruloplasmin, transferrin)、2)尿中のDNA methylationマーカーである8-OHdG, 酸化ストレスの負荷の度合を示すhexanoyl-lysin (HEL), およびtotal antioxidant powerを測定して、年齢がマッチする正常対照群17例と比較した。ASD群ではDNA損傷マーカーの8-OHdG、およびHELは正常対照群と有意差がなかったが、total antioxidant powerがASD群で有意に低値であった。したがって、典型的ASDはantioxidant capacityの脆弱が社会的相互性障害や限定的関心と行為といった中核症状の形成要因と推察された。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はさらに次のような臨床試験を行う。1)アラキドン酸を主としたomega-6脂肪酸とDHAを主としたomega-3脂肪酸の含有比が4:1の製品による自閉症スペクトラム障害の改善度と血漿中および尿中のantioxidant濃度との関連、2)独協医大で、結節硬化症に随伴する自閉症スペクトラム障害症状を持つ症例を対象に、ラパマイシン阻害薬(アニフィトール)の治療効果試験を2015年7月から開始する予定である。この臨床試験の参加者を対象にして、DAN損傷指標の8-OHdGや血漿中の抗酸化タンパク(ceruloplasmin, transferrin, superoxide dismutase)の測定を行って、自閉症スペクトラム障害の改善との関連を検索するとともに、自閉症スペクトラム障害症状の病態として、DNA損傷群と抗酸化能低下群を識別するマーカーを抽出したい。 また、平成27年度は共同研究中の独協医大小児科の准教授と行うので、准教授らの支援と共同研究を行って、当初の目的を達成する。
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