研究課題
多発性硬化症(multiple sclerosis; MS)とは中枢性脱髄疾患の一つで、多様な神経症状が再発と寛解を繰り返す疾患である。現段階においては、臨床症状、MRI検査のみでしかMSの再燃を判断できない。しかし、MSでは通常のMRI検査などで異常を認めない大脳白質(いわゆるnormal‐appearing white matter)にも発症早期から障害が認められ、これらがMS患者の運動機能予後や認知機能障害に大きな影響を与えていると考えられている。このため、MSにおける脳障害を神経線維レベルで画像化する新たなMRI撮影法の開発が期待される。本研究では、位相差強調画像化法を用いてMS患者におけるnormal‐appearing white matterの障害を神経線維レベルで画像化することを目的としている。平成26年度は、正常被験者を用いて位相差強調画像における大脳白質(白質神経線維)の正常解剖の可視化について、MR撮像法と位相差強調画像法における再構成法の最適化をおこなった。平成27年度は、この画像を用いて大脳白質の正常解剖について検討をおこなった。具体的には、正常者43名 (女性28名、男性15名; 平均年齢52.9歳; 年齢幅22-90歳)について、位相差強調画像を撮像し、脳の機能領域(運動野、感覚野、聴覚野)について、皮質下白質の神経線維濃度を他の領域と比較検討した。結果、日常生活において重要と考えられる機能領域(運動野、感覚野、聴覚野)では、他の大脳半球領域と比べ、皮質下白質の神経線維濃度が密であることが明らかとなった。過去に皮質下白質の神経線維について正常解剖を検討した報告はなく、今回の結果は新たな知見であると考える。また、この結果はMSの白質障害を検討する上で重要なデータとなった。またMS患者について、平成27年度までに統計学的検定が可能な症例数を蓄積できた。今後は蓄積した症例について、定性的、定量的に評価をおこなう予定である。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、位相差強調画像における大脳白質(白質神経線維)の正常解剖について検討ができた。この結果により大脳半球白質について正常マップが作成でき、MSにおける白質障害を視覚的・定量的に評価できるようになった。また同時に、MS患者におけるnormal‐appearing white matterの障害を統計学的検定においても証明できる症例数を蓄積することができた。
今後は、平成27年度で蓄積した症例について定量的・定性的に評価し、統計学的に検定を行う。従来のMS患者のMR診断は、T2強調像/FLAIR像や造影T1強調像における異常信号や異常増強を呈するMS病変の評価に限られてきた。しかし通常のMRで検出できない白質病変や皮質病変が多く病理学的に証明されている。定性的評価では、従来のMR画像と比べることで、位相差強調画像が従来評価できなかったMSの白質病変を検出できるかについて検証する。定量的評価では、はじめに、白質と灰白質信号を分離し、白質信号のみを抽出することで白質の定量値を計測できる手法を確立する。これが可能となれば、MSにおける白質線維の病的な減少について定量的に証明する。この手法の診断精度について十分な検証がえられない場合、従来の関心領域を用いた定量的評価をおこなう。
物品が予定より安く購入できたため、残高が生じた。
次年度の消耗品の購入にあてる予定である。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 2件)
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