ヒトの必須微量元素のひとつでもある銅の放射性同位体のうちCu-64は、半減期が12.7時間と比較的長く、医療用小型サイクロトロンでも製造可能なポジトロン放出核種であることから、PETイメージング薬剤への利用が大いに期待され、これまでに数多くのCu-64標識薬剤の開発研究が進められてきた。本研究では、錯体を形成せずにフリーのCu-64イオン(64CuCl2)をそのまま薬剤として利用する新たながん診断用PETイメージングの手法を開発することを目的として、以下の実験を行った。 12種類のがん細胞を用いてCu-64イオンの細胞内取り込みを評価した結果、脳腫瘍、大腸がん等に対してCu-64が特異的に取り込まれることがわかった。これらがん細胞の皮下移植により作製した担がんマウスに、Cu-64イオンを尾静脈から投与した後の経時変化を動物用PET装置によって撮像した。その結果、銅の主な代謝器官である肝臓への高い集積が認められたものの、腫瘍にもCu-64が高く集積することが明らかとなり、PETイメージングにおいてがんを明瞭に描出することに成功した。また、Cu-64の体内動態解析の結果からも、時間経過にともなって肝臓への集積は徐々に減少するのに対して、腫瘍への集積は増加する傾向にあることがわかった。以上の結果から、64CuCl2そのものががん診断用PETイメージング薬剤として有用であることを明らかとすることができた。 今後は、引き続きCu-64ががん細胞内へ取り込まれるメカニズムを検証するための基礎実験を行うとともに、正常組織への生理的集積を低減させる薬剤との併用によりがん特異性の向上を目指す。
|